第43話 寄り道
護衛の旅五日目。
ヘイデンの作業は昨晩終了した。復路は、ユウマの提案で美味しい岩塩が取れる場所に寄ったので、最短ルートを少し外れて往路とは違う経路となっている。
明日の夕方にはダンジョンを出る予定だ。
日が暮れる前に、野営の準備を始める。
「お疲れ様」
アイベの首を撫でて、馬車から外す。すると、アイベが結界の外へ走りだした。
「アイベ⁉」
アイベは思いの外俊足で、あっという間に遠くまで行ってしまった。
「フジ、アイベ逃げちゃったのか?」
「そのうち戻ってくるとは思いますが…」
三人でアイベが走っていった方向を見る。
(どうしたんだろう?)
肉食の魔物に襲われないか心配だが、アイベは魔の山の中腹に住んでるくらいだから、そこそこ強いはず。
従魔契約のおかげで所在は感知できるので、とりあえず戻るのを待つことにした。
私達が夕食のデザートの苺を食べていると、アイベが戻ってきた。
「アイベ! 心配したよ。大丈夫だった?」
近付くと、なんか匂う。
クチャクチャ
(ん? なんか食べてるな)
アイベの口から少し見えている茶色い物を鑑定してみる。
「ダンジョンホシイカモドキ?」
「ホシイカモドキ⁉」
私のつぶやきが聞こえたらしいヘイデンが食い付いて近寄ってきた。
「この匂い、確かにホシイカモドキっぽいですね!」
ヘイデンのテンションが上がっている。
アイベの前に水と野菜盛り合わせを出したが、見向きもしない。いつもはすぐに野菜を食べ始めるのに、まだダンジョンホシイカモドキを噛み続けている。
(好物なのかな?)
マップを使いながらアイベの所在を感知していたので、ダンジョンホシイカモドキの場所は大体わかる。今度取りに行こう。私も食べてみたい。
食後のゲマ茶を飲みながら、ヘイデンが切り出した。
「アイベが食べていたのがダンジョンホシイカモドキの樹皮なら、是非とも手に入れたいです。階段とは方向が違いますが、報酬を上乗せしますので、採取に付き合ってもらえませんか?」
「俺は構わねえよ。馬車のおかげで予定より日数は短縮できてるしな」
「私も構いません。多分ここから片道6㎞くらいの場所だと思います」
私も取りに行きたいと思ってたし。
ヘイデンによると、ホシイカモドキという木は、樹皮をそのまま噛んでも炙った干しイカのような味で美味しいが、薬効もあるとのこと。
予定を変更して、明日はダンジョンホシイカモドキを目指すことになった。
◇◇◇
「アイベ、今日はダンジョンホシイカモドキまでよろしく」
翌朝、私が御者席に座り、昨日マップで確認した場所へ向かう。キョウは頭上を飛んでいる。
出発して約一時間後、アイベが歩みを止めた。着いたその場所には、体育館ほどの大きさの茶色い岩があった。
しかし、周りにダンジョンホシイカモドキらしき木は生えていない。
岩には割れ目があって、アイベが通れるくらいの隙間が開いている。
御者席から降り、アイベを馬車から外すと、アイベはその隙間に入っていった。
岩の中だが…この先にダンジョンホシイカモドキが生えているのだろうか。
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