第44話 干しイカ擬き

 三人で岩の隙間を覗くと、先へ進むアイベのお尻が徐々に暗闇で見えなくなった。


「私が先に行ってみます。お二人はここでお待ちください。結界は張ってあります」

「いや、俺が行くよ」

「私はアイベの位置がわかりますから。大丈夫です」


 光球を浮かべて一人で岩の間を進む。道は緩やかに下っている。

(岩の奥行より長く歩いてるよな。ダンジョンの中にダンジョンがあるみたい)


 道を抜けた先は、満月の夜くらいの薄闇の、まるで火災の後のような荒涼とした森だった。

(炙ったイカの匂いがする)


 森へ足を踏み入れた途端、結界に何かが次々ぶつかってきた。

(鑑定、『骨キツネザル』)

 博物館の骨格標本みたいな魔物だった。結界に強く当たって骨が折れ、もやになっている個体もいる。

 骨もろ過ぎ。


 骨キツネザルは魔石しか落とさないようだ。魔石は自動でアイテムボックスに回収する。

 数が多くて鬱陶しいので、結界を広げ距離を取った。


 振り返って道の出口を確認すると、岩壁に割れ目が入っていた。


(アイベはどこだ)

 光球の明るさを強くする。骨キツネザル達は眩しさに驚いたのか逃げて行った。骨で明るさを感知できるのか不明だけど。


 従魔の気配がする方にしばらく進むと、アイベが木の幹をかじっているのが見えた。


「アイベ」

 呼び掛けたが、主より樹皮の方が大事らしく無視である。


(鑑定、『ダンジョンホシイカモドキ』。これか。枯れ木みたい)

 高さは約4m、太さは直径50㎝ほど。周りに疎らに生えている木も全てダンジョンホシイカモドキだ。

 アイベの横の木を触ると、少し柔らかくてコルクみたいな触感だった。


 ナイフで樹皮を少し削り、口に入れてみる。

(イカ味のガム…とは少し食感が違うか。噛み切るのも飲み込むのも難しいな)

 食感は微妙だが、味は結構いける。七味マヨネーズが欲しくなる感じ。


 もきゅもきゅ噛みながら来た道の途中に転移し、岩から出た。


「フジ! 大丈夫だったか?」

「大丈夫です」

「無事で良かった。アイべはどうしました?」

「アイべはまだダンジョンホシイカモドキを齧ってます。生えている所にご案内します」

「フジさんが今噛んでるのはダンジョンホシイカモドキ?」

「そうです。キョウはここで待っててね」


 ◇◇◇


 三人で一時間ほどダンジョンホシイカモドキの樹皮を採取した。


 その間、結界の周りを骨ハイエナ達がうろうろしていた。

 アイベは好きに結界から出て木をかじっていて、骨ハイエナの半数はアイベに蹴られて魔石になった。


 一時間噛んでも樹皮はまだ味がしていたが、顎が疲れたのでゴミボックスに入れた。


「ここ、冒険者ギルドの地図に載ってないよな。もう少し探検してみるか?」

 ユウマはワクワクしてるけども。

「護衛中なので、別の機会にしませんか?」

「フジさんの結界があるとは言え、ダンジョンでは何が起こるかわからないからな。店もそんなに長くは休めないし」

「そっかー、残念」


 岩壁の割れ目に戻る途中、40頭ほどの骨スイギュウの群れが近くを通った。それをヘイデンがじっと見つめている。


「あれ、出汁取ったら美味しいかな」

「……」

「……」

 ドロップしたダンジョン産魔物肉は食べるから、骨の魔物を食材扱いするのはおかしくない。多分。


「子牛を何頭か倒しましょうか。倒した後骨が残るようだったら、その骨で試してみたらどうでしょう」


 30mほど先の子牛の首の骨を光魔法のレーザーで切断する。すると、攻撃に気付いた骨スイギュウ達が一斉にこちらに向かってきた。


(ひえぇ!)

 すぐに群れを土壁で囲い、火を放って全ての骨スイギュウを燃やし尽くした。残ったのは魔石だけだった。


 ダンジョン産フォン・ド・ボーは、今回は無しで。

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