第39話 スフィンクス

 魔山羊やぎのアイベが引く馬車に乗って、徒歩より少し速い速度で21階層を進む。


 御者席には最初は私、今は交代してヘイデンが一人で座っている。周りを結界で覆っているので危険はない。


 馬車の中はユウマと二人。なんか会話しないとかな。

「指名依頼驚きました。今回ユイさんとスナさんは一緒じゃないんですね」

「ユイもスナも今は領都ニカにいる。ユイは行商の男に惚れて付いて行っちゃってさ」

 わぁー、恋だね。

「その男は迷惑そうだったんだけどな。ユイは『照れてるだけ』とかいい方に解釈してさぁ。俺が止めても聞かないし」

 10代の女の子、強い。

「フジの結界はスナのお墨付きだったから、組んでもらえたらいいなと思って」

「私も初めて組むのが知ってる人で良かったです」



 ドスッ


 石槍を投げて、馬車の窓から見えたダンジョンサイを倒した。馬車の購入で散財したので稼がなくては。


「キョウお願ーい」

「ギッ」

 魔石とドロップ品の回収はキョウにお任せだ。馬車の上の箱に入れてくれる。

 いつもは直でアイテムボックスに入る設定にしてるけど、今回はソロじゃないから。


 キョウは羽が生え変わって、今の大きさは約60cm。

 白い体に、頭の後ろには黒い冠羽。風切羽と尾羽も黒い。足は膝上は黒、膝下は白。

 大きなはしばみ色の目の周りは紅色で、黒い睫毛はくるんと長くバッサバサ。

 モデルみたいに長い足と、色っぽい目元。何かに似てると思ってたけど、ヘイデンに似てるんだ。



 二時間おきに休憩を取ることにした。

 休憩場所に結界を張り、アイベとキョウに水をあげて、アイテムボックスから出した組み立て済みテントから離れのトイレに転移する。

 座りっぱなしも疲れるな。


 テントから出ると、ヘイデンがお茶を出してくれた。

「ユウマは体をほぐしがてら狩りに行ってます」

「そうですか。お茶ありがとうございます」

 良かった、ゲマ茶だ。マジョルカの薬草茶じゃない。


「よくここのダンジョンに潜るんですか? 年末も来てましたよね」

「え、ひょっとしてあの時の魔術師、フジさんだった?」

「はい」

「フジさんに受けてほしかったな。年末は目的地まで行けなくて。在庫があるから次の年末でもいいかと思ってたんだけど、」

「うわっ!」


 話の途中で、ユウマの叫び声が聞こえた。見ると、スフィンクスに襲われている。

 上半身が人間、下半身がライオンの魔物。美女で胸丸出し。ギュスターヴ・モローの『オイディプスとスフィンクス』みたいになっている。


 すぐにスフィンクスを氷漬けにした。人型の魔物を矢や槍で刺すのは抵抗がある。


「怪我はないか?」

 ユウマの元にヘイデンと駆け寄る。

「ああ。フジ、助かった」

「いえ、無事で良かったです」


 ヘイデンは地面に転がったスフィンクスをじっと見つめている。


「これって、まだ死んでないですよね? 生け捕りにできますか?」

「…できますが」

 生け捕りにしてどうする。スフィンクスが巨乳だからか? がっかりだよ!


「試したい薬があるんです。人型は都合がいい。魔物だから人間に使うのとは違うだろうけど、実験して副作用のデータがほしい」

「……」

「……」

 スフィンクスのおっぱいガン見と思いきや、実験体としてロックオン。これはこれで引く。


「でも、ダンジョンの外に連れ出すのは大変だよな。開発中の薬は持ってきてないから、残念だけど長期で次回…」


 ユウマを目で促し、解凍したスフィンクスを魔石と爪にしてもらった。

 先に進もう。

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