第24話 ちびトレント

 シホロ東ダンジョン22階層。

 しとしと雨が降る森の中を、結界の傘をさしてのんびり歩く。


(白くて小さい木の精霊がいそう)


 時々、杉と思っていた巨木が枝を伸ばしてきたり、大きなキノコが胞子を飛ばしてきたりして驚くが、結界に阻まれればそれ以上何かしてくる事もなく、害はない。


 川を見つけ上流に進むと、大きな音が聞こえてきた。

(滝だ。凄い)

 落差50m程の見事な滝が現れた。滝壺に落ちる水のしぶきで辺りが白く煙っている。


(休憩しよう)

 日本の四季から木のベンチとクッションを出し、ホットレモンを飲みながら、何も考えずに滝を観る。


 どれくらいそうしていただろうか。ふと気がつくと、結界に小さなトレントがへばりついていた。

 目はないけど、こちらをじーっと見てる気がする。

 

(これで樹齢はどれくらいなのかな?)

 樹高は私の腰くらい。鑑定しても『トレント』と出るのみで樹齢も樹種もわからないが、広葉樹っぽい葉だ。


 小さい木なのに、頭の中程の枝に鳥の巣を載せている。巣の中には卵が二つ。ウズラの卵より一回り大きい。


 親鳥はどうした。ダンジョンにいるからには魔鳥なんだろうけど、卵を温めなくていいのか? そもそも動く木に巣を作って通えるのか?


(何の卵だろ。鑑定、…『魔鳥の卵』)

 相変わらず分類が大きくて残念な鑑定だ。


 いつもは正午頃に家に帰るが、今日はここで昼食を取ることにした。日本の四季から銀だらみりんのお弁当を出して食べる。


 じー。


 …すごく視線を感じる。


 じー。


 お弁当をベンチに置いて、ちびトレントに近寄った。

 私がすぐそばまで来てもちびトレントはその場所から動く様子がない。


(木の食事は水と日光か)

 雨が降っているから必要ないとは思うが、結界の地面近くに穴を開けて、ちびトレントの根元にうちの湧水をかけてあげる。

 ちびトレントは嬉しそうに葉をさわさわ鳴らし、満足したのか、根を足のように動かして森の奥へ去っていった。



 ◇◇◇


 翌朝も、滝を観に来た。今日も雨だ。


 滝はずっと観ていられる。

 結界を張りベンチに座って温かい緑茶を飲んでいると、昨日のちびトレントがまたやって来た。卵はそのままだ。


 またこちらをじーっと見て結界にへばりついているので、昨日と同じように結界に穴を開け、根元に湧水をあげる。


 ところが今日は湧水をあげても去らず、穴をくぐって中に入ろうとしてきた。

「わぁっ」

 屈むと頭の巣から卵が落ちそうで、慌てて穴を広げる。


 ちびとはいえトレントは魔物。自分の体にはレインコートを纏うように結界を張った。

 私の警戒にはお構いなしでトレントはトコトコ歩いて中に入ってきて、静止した。


 しばらく観察したが、動いていないとただの木だ。


(襲ってくることはなさそうだし、ほっとくか)

 急須でお茶を入れ直し、お茶請けも出そうと日本の四季画面で苺大福を検索していると、ちびトレントがベンチに近付いてきた。


(緑茶が欲しいのかな?)

 興味があるようなので、緑茶を冷ましてから根元にかけてあげる。

 ちびトレントは葉をさわさわ鳴らし、喜んだ(ような気がする)。

 

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