第25話 離れ

 ここ数日、私はちびトレントと卵が気になって、毎朝シホロ東ダンジョン22階層の滝に通っている。

 22階層は雨が多い。日中の気温は20〜23度くらい。


 ちびトレントは毎朝森の奥からやって来て、緑茶を根元にかけると葉をさわさわし、その後動かなくなる。


 親鳥は一度も見ていない。私がいない所で卵を温めているのかもしれないし、魔物の卵は温める必要がないのかもしれない。

 そもそも、ダンジョンの魔物に親がいるのだろうか?

 だが一応、親鳥の邪魔にならないよう、卵を確認したらすぐその場を離れている。



(ここに家建てようかな)

 屋久島みたいなこの森が気に入った。

 魔の森の家から直接ダンジョン内に転移することはできない。冬の間はシホロ東ダンジョンに潜る予定だし、ダンジョンの中に拠点を作った方がいいかもしれない。


 滝と川から離れた静かな場所を切り開き、結界で雨を遮る。基礎を造って、日本の四季から日本旅館の離れのような家を出した。


 裸足で畳の上に転がる。

(和室落ち着くー)


 外に広がっているのは日本庭園ではないが、鬱蒼とした森も障子を開けて見ると風情が増す気がする。


 楽しくなって、作務衣さむえに着替え、家具や家電を揃えていく。

 昼食は味噌煮込みうどんにした。

 食べた後、照明、食器、風呂の椅子や桶まで、全て和風の物を選び、最後に床の間に小林古径の掛け軸を飾った。鑑定しても『掛け軸』としか出ないけど、これ本物かなぁ?



 ◇◇◇


 翌々日は、午前中、商業ギルドで商品を補充した。

 今回はクリスマスグッズを並べてみた。赤い服を着たお爺さんに需要があるかはわからないが、綺麗な蝋燭や皿、飾りなんかは売れると思う。

 クリスマスには、またサンタになって孤児院巡りをしてもいいな。


 猫の手亭でランチにポトフを食べ、肉屋で加工を頼んでいたソーセージ、ベーコン、ハムを受け取って、ダンジョン22階層に戻る。


 22階層の魔物はD~Cランク相当。地上の魔物の固有種が出る。ダンジョン鹿、ダンジョン猿、ダンジョン蛇等。

 妖怪・怪獣タイプではないので、食肉にすべく狩りをしている。



 森の中で獲物を探している時だった。

 複数の人間の気配がする。下層に行くほど冒険者は減るので、久しぶりだ。

 戦っているようだが、魔物相手ではない。人間同士だ。

 

(冒険者同士の喧嘩か、幻覚にやられてるのかな)

  

 この階層は植物型の魔物も多い。トゲの生えた枝で鞭のように打つ、蔦で絞める、爆発する実を投げるといった攻撃に加え、毒や麻痺、幻覚等の状態異常を起こす。


 私は耐性があるし結界に守られているので問題ないが、普通の冒険者には厄介だろう。

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