第26話 冒険者トリオ

「あたしのビスコッティ! 甘いの最後に食べるつもりだったのに!」

「お前が先に俺のジャーキー食ったんだろ!」

「こらやめろ、あっテントが…!」


 幻覚にやられて仲間が魔物に見えてるのかもと思ったけど、違った。

 姿が見える距離まで近付くと、わかりやすい理由で男女が取っ組み合いをしていた。

 この階層まで来れるのだ。喧嘩はしてもうまくいっているパーティなのだろう。仲裁役の男性もいることだし、放っておこう。


 ばふっ


「あ」

 誰かが何か踏んだ。紺色の煙が広がり、三人がばたばた倒れていく。


 ひとまず風魔法で煙を吹き飛ばし、三人を結界で覆って雨を遮った。


 踏み潰された直径12cm程のキノコを鑑定すると、眠りキノコだった。

 即効性の致死毒じゃなくて良かったよ。倒れた時頭を打ってないといいんだけど。多少は草がクッションになったとは思うが。少なくとも血は出てないみたいだ。


 残念ながら治癒系の魔法は使えない。自分には不要なので薬も持っていない。

 彼らは持っているかもしれないが、眠っているだけだし、勝手に他人の荷物を漁るのは気が引ける。


 とりあえず、地面に寝たままは良くないだろう。

 洗浄の魔法をかけながら、彼らの崩れたテントの防水布の上に日本の四季からマットを出し、その上に三人を移動させた。

 彼らの武器は近くに置いておいた。剣、槍、弓だ。

 三人とも20代だろうか? 日本人の私にはこちらの人の年齢はわかりにくい。


(薬を買ってこよう)


 ダンジョン1階層に転移し外に出て、広場で薬を売っている露店の店主に話しかける。


「眠りキノコ用の薬はありますか?」

「ええ、こちらかこちらですね」


 店主が出した2種類の解睡眠薬は、どちらもトローチのような物だったが、一方は『眠り姫にキス』という商品名だった。


「……」

「こちらはシホロ町の有名な薬師、マジョルカの作ですよ」


 値段は『眠り姫にキス』がもう一方の2倍。鑑定するとちゃんと『解睡眠薬(優)』となっている。もう一方は(可)。

 優先すべきはネーミングセンスより質だ。


「こっちを3つ下さい」

「ありがとうございます」


 三人の元へ戻り、薬を口に含ませる。一応、目覚めるまで見守ろう。


 彼らは22階層より下に行った事があるだろうか? 起きたら話を聞いてみたい。


 お茶とおやつを用意しよう。

 ビスコッティなら自分で焼いたアーモンド入りのがアイテムボックスに入ってるけど、保存食っぽいビスコッティより別のお菓子の方がいいかな。

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