第34話 命名

 この国でも、年末年始は休むのが一般的だ。

 魔物は年末年始だから休業ということはないので、冒険者ギルドは開いている。

 ただし職員の数は最小限で、新規の依頼や冒険者登録の受付け、依頼にない素材の買取りはしていない。緊急性が高い魔物討伐と、事前に出された依頼のみの対応だ。



 23階層の迷路情報を売って以来、冒険者からパーティに勧誘されるようになった。

 

 これまで、全く勧誘されないのにフジとハナのキャラ分けをしている自分に、バレンタインデーにチョコ用バッグを用意して登校し、母に頼まれた牛乳だけ入れて帰ってきた兄を思い出したりしていたが、兄と違って私のキャラ分けは備えておいて正解だった。


 年末年始期間は冒険者ギルド出張所に冒険者が少ないので、依頼が出ているダンジョン素材はこの機会に納品してしまおう。



「護衛依頼を受けませんか?」

「護衛?」

 納品が終わった後、初めてギルドから護衛を持ち掛けられた。


「内容は、ダンジョンでの薬師の護衛です。事前に依頼を受けていたパーティの魔術師が約束の時間に来ていないので、臨時で組む魔術師を募集しています」

 採取前に2日間一定の処理を素材に施す必要があり、それを薬師自ら行いたいらしい。


「あちらがそのパーティと依頼人です」

 飲食スペースを見ると、男性二人と女性一人が座っている。


(あれ、ヘイデンだ)

 座った姿は牡丹ぼたんのようだ。足長いな。シホロ町に帰省したついでだろうか。


「お断りします」

 私は毎朝ちびと緑茶を飲み、雛達の写真撮影をし、虫を取らなくてはいけない。


 カウンターにいる私に気付いたヘイデンが立ち上がって、笑顔で話しかけてきた。

「こんにちは。魔術師の方ですか?」


「すまーん、女の所に泊まって寝過ごした!」

 ローブを着た男性がギルドに入ってきた。依頼を受けたパーティメンバーだろう。


「失礼します。お気をつけて」



 ◇◇◇


 雛達の名前を決めた。

 ちびトレントの名前は「ちび」で定着したが、雛達には年内に名前を付けたいと思っていた。


「今日から、小さいのはジャク、大きいのはキョウだよ」

「ぴぃ」

「ぴぃ」

 ちびは葉をさわさわ。


 孵化した日、鶏肉のような二羽を鑑定した後に浮かんだ言葉は「弱肉強食」。

 ダンジョン雀が「弱肉」、ダンジョンへびくいわしが「強食」だ。


 我ながらひどい。

 これはダメだと半月考えたが、一度弱肉強食と浮かんだ後では、他の名前候補がどれもしっくりこなくなってしまった。


 雀はジャクとも読むから…「ジャク」と「キョウ」ってことで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る