第33話 ヘイデン

 12月24日。フジの姿で、マジョルカ薬局ニカ店に入る。


「いらっしゃいませ」

 店主がこちらを見た。

(昨日のイケメン!)


「掛けてお待ちください」

 イケメンは私にそう言って、カウンターの前の女性二人組に商品の説明を始めた。

 ベンチには別の女性客も座っている。


 彼がマジョルカさんの息子、ヘイデンだったのか。

 これは息子自慢もしたくなるだろう。父親似なのか、黒髪のマジョルカさんには似ていないけど。


 店はやはり独特な匂いがする。

 ベンチに掛けて店内を見回すと、シホロ店同様、ドアを開けたら前にカウンター。カウンターの後ろに薬箪笥と薬棚。


 薬棚の一部に、カラフルなラベルの商品が並んでいる。

 聞こえてくるヘイデンと女性客の会話からすると、化粧水やハンドクリーム、リップクリームのようだ。


 壁は、三面は白く、入って左手の一面はショッキングピンク。

 そのピンクの壁には飾り棚があり、猪鹿蝶の商品が飾られていた。

 和洋折衷、ハロウィーンもクリスマスも混在。アートっぽいと言えなくもない。

(正月の縁起物を売りに出したら、買ってここの猪鹿蝶ギャラリーに並べてくれるかな)


 ヘイデンを見ると、猪鹿蝶のマルチボーダーのセーターを着ている。なぜそうしたのか理解できない配色のセーターだが、着ているのがイケメンだとお洒落に見える。


(カヒロさんが言っていた「とあるお客様」ってヘイデンのことかな?)

 このビジュアルならあり得る。もしそうだったら、売上げに貢献していただきありがとうございます。


 私の前の女性客が「また来ますね」と言って笑顔で店を出て行ったので、カウンターへ行く。


「お待たせしました」

 営業スマイルのヘイデンの瞳ははしばみ色。少し垂れ目。

 なんか普通の接客でも色っぽい人だ。


「こんにちは。傷薬とハンドクリームとリップクリームを20個ずつお願いします」


 また女性客が入ってきた。確かにこれでは男性客は入りにくい。

 自分の集客力を知っていて女性向け商品を置いているあたり、ヘイデンは商売上手だ。



 ◇◇◇


 夜、サンタクロースのお面と衣装を身に付ける。誰も見ていないが、イベント気分は形から。


 前回同様、イキュ町、領都ニカ、サント町、シホロ町を転移で移動し、孤児院の玄関前に木箱を積んでいく。


 クリスマスプレゼントの中身は、手袋、シュトレン、蝋燭、傷薬、ハンドクリームとリップクリーム、そしてダンジョン産の魔物肉詰め合わせと毛皮だ。



 ◇◇◇


 翌朝、オーナメントを飾って、ちびをクリスマスツリーにした。

 雛達の成長を記録するために毎朝写真を撮っているのだが、今日はクリスマスバージョンだ。

「ぴ?」

「ぴ?」

 ちびと雛達は困惑気味だ。ごめんよ。嫌われたくないので写真を撮ったらすぐに外す。


 うちのちび達可愛い。満足した。

 メリークリスマス。

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