第51話 福引き

 異世界のお祭り。せっかくなのでEランク商人ハナとして店を出したい。


 アーズ町の庁舎でお祭りの事務局に出店の申し込みをしたところ、メイン会場の近くは既に埋まっていて、やや離れた場所が割り当てられた。でも人通りはあるし悪くなさそう。


(何屋さんがいいかな?)

 会計が楽なように、商品の値段を大銅貨5枚均一にするのは決定事項。

 去年の夏に野営場で屋台を出した時はビールとフライドチキンだったけど、飲食物の出店は多そうだ。


案その1 綿飴屋

 お祭りっぽい。綿飴はこの世界にないので目立つし、作るところも目を引くだろう。材料は少量のザラメのみでほぼ空気だけど、見た目のボリュームはあるから大銅貨5枚でもいいと思う。

 →ボツ。発電機の音が結構耳障りだったのと、試作で何個か作ったら飽きたので。(試作した綿飴はアイテムボックス行き)


案その2 射的

 お客さんがゲームとして楽しめる。色々な物を置いても品毎に価格を考える必要がないのもいい点だ。

 →ボツ。銃が存在しないこの世界に新たな武器のアイデアをもたらすのが怖いので。


案その3 福引き

 八角形の抽選器をガラガラ回して出た玉の色で景品が決まってるあれだ。設置が簡単で、射的同様、品毎の価格設定が不要なのもいい。

 →採用。



 ◇◇◇


 青空の下、お祭りは多くの人で賑わっている。

 ダンス用の衣装なのか、普段より華やかな服を着た人が多い。女性は髪に花を飾り、赤やオレンジ、黄色など原色のワンピースを着ている。男性は白いフリルのシャツに黒のジャケットとパンツだ。


 私は、茶色のキャスケットの帽子、生成りのシャツに茶色のパンツ、ベージュのエプロン、伊達眼鏡という昨年夏の屋台の時と同じ格好だけれど、お祭り用にもう少し派手にすれば良かったかもしれない。


 私の隣の店からは肉を焼くいい匂いがする。反対側の隣は、チュロスのようなスイーツを売っている。


「1回大銅貨5枚でーす」

 私は客寄せに、福引き3等の景品であるアフリカの楽器カリンバを演奏している。

 初心者向けの曲を練習したけど、残念ながらあまり才能はないみたい。一応聞き苦しくない程度にはなっていると思うが、苦情を受けたら即やめよう。


 福引きの景品はこんな感じ。

6等 木彫りの置物、竹とんぼ他 30%

5等 ガラス細工、陶製の置物他 25%

4等 木製けん玉        15%

3等 カリンバ         15%

2等 レースのハンカチ     10%

1等 ガラスのペンダント     5%


 どれも私には不要品だ。

 6等と5等にはがらくたも混ざっているけど、ごちゃごちゃした中からお客さんが自分で好きな物を選ぶのも楽しいんじゃないかな。


 ガラガラガラ

「白、6等です」

「あー、また白」

「もう1回、次こそハニーのためにペンダント取るから!」

「…あの、良かったらペンダント売りましょうか?」

「え、じゃあダーリン買って」

「いや、それじゃ意味ない」


 いや意味あるよ。彼女もう飽きてるから切り上げた方がいいって。

 このダーリン、もう20回以上回してるから確率的には1等が出ていいはずなんだが、運がない。

 ペンダントは綺麗だけど安いやつだし、次に回して出なかったら、大銅貨5枚で売って場所を空けてもらおう。

 後ろに順番待ちの子供が並んだから。未来の一流カリンバ奏者かもしれないから。

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