第56話 銀一均

 その日は蜂蜜や野菜の他に『ペリーちゃんクッキー』も買って帰った。

 異世界にもあるんだな、ご当地キャラのお菓子。


 クッキー屋さんの話によると、ペリーちゃんは元は従魔で、ナム村で暮らしていた主が亡くなってからも村に出入りしているらしい。

 ナム村の忠犬ハチ公……と言うには忠ペリカン感に乏しいけど、亡くなった主はペリーちゃんのおバカなところを愛でていたのかもしれないな。

 というか、愛玩以外で魔ペリカンが何の役に立つのか不明だ。何か運んでくれたりとか? 魔ペリカン便?


 ペリーちゃんクッキーは「定番のナム村土産として大人気」とクッキー屋さんは言っていたが、本当だろうか? 丸いクッキーにペリカンのシルエットが型押しされているだけで、味はいたって普通だった。

 世界が違っても商売人は商魂たくましい。


 私も一応商人の端くれ(Eランク)なのだが、価格設定も客からの値切りも苦手なので、策を講じることにした。


『銀一均』

 100円均一のパクリである。

 商品は全て銀貨一枚。新しい屋号もこれにする。猪鹿蝶に続くとなんか江戸の賭博用語っぽい感じがしないでもないが、「銀貨しか受け付けません! 銅貨不可!」と主張してるつもり。

 行商や露店の屋号なんてあまりお客さんの目には入らないだろうけど、値切り交渉回避に多少は効果があってほしい。


 あとは適当に商品をピックアップして、試しに次回のナム村の市に参加してみるとしよう。



 ◇◇◇


 市への参加申し込みと場所代の支払いは当日現地にいる村の担当者にすればいいとのことだったので、十日後、ワゴンを引かせた魔山羊やぎのアイベと共に、商人ハナの姿で市の会場にやって来た。


 今回の商品は、アーズ町のお祭りの時に並べた福引きの景品(木彫りや陶製の置物、ガラス細工、木製けん玉、カリンバ)と、皿、マグカップ、手ぬぐい、ランチョンマット、巾着袋、蝋燭ろうそく(大)だ。

 福引きは今日の半額だったけど、商品の価値が銀貨一枚より上か下か同等かはお客さんが判断してくれればいい。


 良い場所を確保しようと朝早くに受付を済ませたのだが、意味なかった。


「従魔はしっかり繋いで、くれぐれもロバに近付けないようにしてくれ」

「ハイ…」


 アイべ、めっちゃロバ達に嫌われる。

 アイベを見て大音量でいななくロバ。手綱を振り払って逃げだそうとするロバ。暴れて積荷を振り落とすロバ。


 なぜだ。アイべはただ歩いていただけなのに。

 アイベは魔物だけど草食だし、昨年夏に屋台を出した野営場には馬がいた気がするけど問題なかったから、思いも寄らなかった。


 アイベは自分のせいで周りが騒動になっても全く気にしていない。でしょうね。

 

 そして私はぽつんと会場の隅っこで、銀貨一枚均一の店を出したのだった。

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