第55話 ロバ
学習しない魔ペリカンが女の子の次に挑んだのは、飼い主と歩いていたコーギーに似た短足の犬だった。
お尻が食パンみたいなかわいい犬で、ペリーちゃんがかぶりつきたくなるのもわからなくはない。
「ワウッ」
が、明らかに飲み込めるサイズではないし、咥えようとして逆に犬に噛みつかれそうになって、羽をバタバタさせて慌てて飛んで逃げていった。
ペリーちゃん、自分より小さい生き物はとりあえず餌認定してるっぽいな。大雑把すぎる。
おバカな鳥を笑って見送った後は、冒険者ギルドナム支部を訪れた。
小さな公民館みたいな雰囲気で、カウンターを挟んで年配の女性職員とムキムキの男性冒険者、カウンターの奥に男性職員がいた。
「いらっしゃい。あら、初めての人かしら」
「はい、こんにちは。掲示板を見せてもらいますね」
カウンターの方から聞こえてくる会話によると、男性冒険者の本業は
斧で生き物を殺すなんて日本だったら猟奇的だけど、今では私も奈良の鹿を見たら「狩り放題じゃん、食えばいいのに」とか思いそうではある。
[注 奈良の鹿は国の天然記念物なので狩るのは文化財保護法違反です]
掲示板に特に受けたい依頼はなかった。数が少なくて古い依頼票も無いところを見ると、地元の冒険者で間に合ってるんだろう。
私には魔の森というプライベート狩場があるしシホロ東ダンジョンでも稼げるから、ここでは受けなくていいや。
今日は久しぶりに帯剣してるけど、そういえばしばらく剣の稽古をしていない。そのうちイキュ町の冒険者ギルドに顔を出して、ゴリラ3号に稽古をつけてもらおうかな。
◇◇◇
ナム村の市に来ている。この村では十日に一度、市が開催される。先日ランチを食べた食堂のおかみさんに教えてもらった。(ちなみにメニューは鹿肉のローストだった。味は可もなく不可もなく)
会場は南門そばの空地だ。今朝は客として冒険者フジの姿で見て回っている。
場所代を払えば誰でも出店できるので、農家の人が農産物を売っていたり、作った本人が民芸品や加工食品を売っていたりする。売っているのがお婆さんだと自家製のピクルスだの果実酒だの漬けるもの全般美味しそうって思っちゃう。
町の常設の市場とは違って、道の駅とかイベントっぽさがある。規模はそう大きくないが楽しい。
ナム村の外から来たのか、荷物を運ぶためのロバを連れている人が結構いる。山間部だし、馬よりロバの方が飼いやすいんだろう。
ロバはポニーくらいの大きさで耳が長く、体は灰茶色。鼻口部が白いのがかわいい。
(行商はアイべに付き合ってもらうつもりだったけど、ロバもいいなぁ)
商品と価格をチェックしながら歩いていると、お客さんが値切りをしている声が聞こえてきた。
(…ああいう交渉を楽しんでる店主もいるんだろうけど)
元々値段を決めるのが苦手なのに、値引きについても決めなきゃいけないなんて面倒くさい。商品は日本の四季から出すから赤字になることはないけど、安くしすぎると品質と釣り合わなくて良くないだろうし。
お、蜂蜜売ってる。
「一瓶ください」
「ありがとう。銀貨二枚だよ」
「はい」
それに押しの強い客に安く売ると、値引きなしで買ってくれる人が損する感じなのがどうも。自分もまけてと言えないタイプだし。冒険者割引とかはきっちり利用するけども。
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