第54話 ナム村のペリーちゃん

 結局、キョウは魔ペリカンが吐き出した魚を食べなかった。

 道中で蛇を食べていたので満腹だったのか、魔ペリカンの貢物がお気に召さなかったのかはわからない。


 二羽はビチビチ動く魚を挟んでしばらくじっと向かい合っていたが、キョウが魚に興味を示さなかったため、その魚は魔ペリカンが咥えて丸呑みした。


(うわ、首がウネウネしてる…)

 激しく動きながら魔ペリカンの首を通って胃へ落ちていく魚。まさに踊り食い。


 私この後昼食なのに、見るんじゃなかった。


(苺と生クリームが載ったふわふわのパンケーキとか、見た目が対極の物を食べよう…)

 進む気が失せた私はキョウを連れて魔の森へ転移した。



 ◇◇◇


 翌日の朝。

 転移で移動すれば今日の昼前にはナム村に着けそうなので、目立つキョウはシホロ東ダンジョンに置いてきた。ジャクは水浴びに勤しんでいて付いてきてくれなかった。


 冒険者フジの姿で、昨日魔ペリカンを放置して帰った地点に転移する。


「わっ! まだいた」

 転移したら目の前に魔ペリカンがいた。

 魔ペリカンは首を上下左右に動かして私の周りを見ている。私の美貌には全く反応がなく、今は真っ白だ。


 無表情なので魔ペリカンの感情はわからないけど、これはキョウを待ってたんだろうな。一度会っただけの相手をずっと待ってるとか、人間だったら怖い。

「キョウは連れてきてないよ。じゃあね」



 転移を繰り返して南下し、ナム村の1km程手前で転移を止め徒歩で村に向かう。

「……」

 私の後ろを、魔ペリカンがペタペタ歩いている。転移で移動している間も上空を飛んで付いてきていた。


「この先にキョウはいないよ」

 振り返って話しかけたが、魔ペリカンは歩みを止めない。

 どこまで付いてくる気だろ。従魔でもないのに魔物を村に入れるわけにはいかないんだが。



 ナム村はゴダール領南部では比較的大きな村で、商店や飲食店、宿屋が揃っているし、冒険者ギルドの支部もある。

 ここから南の山間には小さな村や集落が点在していて、そこの住民達はナム村まで買い出しに来るようだ。


 とりあえず冒険者ギルドナム支部に行ってみようと村内を歩いていると、村人から次々に声を掛けられる。私の後ろの魔ペリカンが。


「よう、ペリーちゃん」


「この時間に村にいるのは珍しいね」


「ペリーちゃん、飯は食ったか?」


 魔ペリカンは誰にも咎められることなく村に入った。私に付いてきたんじゃなく、ただ目的地が同じなだけだったらしい。

 ストーカーペリカンと思ってごめん。


「こらこらペリーちゃん、うちの子は餌じゃないよ」

「きゃっきゃっ」

「相変わらず飲み込めるサイズがわからないみたいね。アハハ」


 母親と手を繋いだ3歳くらいの女の子の頭や胴を、魔ペリカンが何度も咥えようとしている。


 親子で笑ってる場合か。


 しかし焦ったのは私だけで、周りの人は皆スルーしている。どうやらこの村では見慣れた光景であるようだ。

 親子はにこやかに魔ペリカンに手を振って去っていった。

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