第57話 土産物屋

 こんにちは。すごく迷惑な商人のハナです。今朝何人に謝ったのかは覚えてません。


 私の店は市の会場になっている空地の一番奥。南門近くの露店群とロバの預かり所から隔離されている。

 出禁にならなかっただけ良かったと思おう。

 後ろの草むらではアイベがモシャモシャと食事中だ。タダだからたんとお食べ。


 隔離のおかげで右も左もスペースが空いているから、商品を陳列するワゴンを増やしてもいいよね。

 追加したワゴンには、北は鮭を咥えた木彫りの熊から南はシーサーの置物まで、日本各地の土産物を並べることにした。


 ロバの騒動を知らない人には「なんであの店あんな所に?」って感じで見られるけど、好奇心から寄ってくる人はちらほらいる。

 ワゴンには『銀一均 〜全て銀貨一枚〜』と書いた横断幕を掲げてある。

 


 それにしても、この先の行商、どうしよう。

 今日ロバを連れているのは、ナム村より南の山間部から来た人達だろう。行商先に予定していた地域だが、アイベは連れて行けない。

 行商で馬やその類を連れていないのは不自然だから、アイべの代わりを用意するか、行商ルートを変更するか。そのへんは夏までに考えよう。


 

 土産物のワゴンの前は、珍しさからかお客さんが長く留まる。生活必需品ではないのでほぼ冷やかしだが、賑やかしになってくれるだけでもいい。

 

「欲しいけど、どうしようかしら〜。ちなみにお嬢さんは」

 お客さんに話しかけられた。

「これとこれだったら、どっちが好き?」

 えっ、こけしとこけし? どっちも同じくらい好きでも嫌いでもない。

「強いて言えば、こっちですかね…」

 胴の模様が可愛いと思います。

「そう。悩むわ〜」


 年配のご婦人が悩んでいる間に、お客さんが一人増えた。若い男性で、こちらも土産物を見ながらフレンドリーに話しかけてくる。


「お姉さんは、この中ではどれが一番好き?」

 正直、土産物は全部いらない…。ホコリを掃除するのが面倒だから昔から飾りは置かないタイプなのだ。今は魔法で簡単にきれいにできるけどさ。

「こちらの馬ですかね…」

 馬の埴輪はにわは可愛いと思います。

「じゃあ、その馬の置物を買うよ」

「ありがとうございます。銀貨一枚です」

 よし、売れた。値切りなしで売れた。


 銀貨を受け取って商品を渡したら、それをお客さんから返された。

「これ、俺からお姉さんにプレゼント」

「は?」


 そうか、美人だとこんなことが起こるのか。私、後天的美人だからびっくり。


「お姉さんなんて名前? 俺はピートっていうんだ。隣村に住んでるんだけど、お姉さん嫁に来ない?」

「屋号は銀一均です。行商にだったら行ってもいいです」


 私に埴輪でアプローチとは、キョウに肺魚を貢ぐペリーちゃんと同レベルだぞ。

 あっ、行商も行けないんだった、ロバがいる所には。


「やったー、来てくれるんだ。俺の家に泊まるといいよ」

「やっぱり行商にも行きません」


「決めた、こっちにするわ〜」

 空気を読んだのか読んでないのか、ご婦人がナンパ男との会話に割り込んでくれた。


「ありがとうございます。銀貨一枚です。今なら、おまけでこちらの品をお付けします」

「えっ」

「あら、ありがとう〜」

 贈られた埴輪はご婦人へ進呈した。


 ご婦人は追加でもう一方のこけしも買ってくれて、「私から坊やにプレゼント。お揃いね。ウフフ〜」と言って微妙な顔をした男性に渡していた。


 良かったですね〜。お買い上げありがとうございました〜。

 

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