第47話 乙女ユイ

 食事会の場所はカジュアルなイタリアンみたいな店で、参加者はヘイデン(22歳)、ユイ(16歳)、私(26歳)の三人だった。


「フジが来るならジョゼフが来なくて良かったー。美人のフジにジョゼフが一目惚れしたら嫌だもん」


 ジョゼフというのはユイが狙っている行商人の男性で、食事会に誘ったが断られたらしい。

 ユイは彼に商品の仕入先候補としてヘイデンを紹介したかったそうだ。ちなみにヘイデンはその件について事前に知らされていない。


 ジョゼフは茶髪茶目で34歳。家族は商店を営む両親と11歳の娘。妻とは離婚。理由は嫁と姑の不仲。馬が好きで、腰痛持ち。


 随分年上で驚いた。話を聞く限り、ジョゼフは脈なしっぽい。16歳の女の子に脈ありでも引くが。

 まあ、ここは日本じゃないし、好みは人それぞれだからな。ユイはこんなにイケメンのヘイデンのことは何とも思わないらしい。私もキョウを見慣れているのでヘイデンの美貌には耐性がある。


(スナが不参加なら私も断れば良かったよ)

 彼に参加者の平均年齢を上げてほしかった。


 会ったこともないジョゼフのどうでもいい個人情報を聞くだけの会に終わったが、楽しそうに彼の話をするユイが可愛らしくて、ふと、高校生の頃の出来事を思い出した。


 春の校庭で、木漏れ日の中立ち話をする私と友人を見て、女性の国語の先生が万葉集の歌を詠んだ。若い先生だった。今の私と同じくらいだったかもしれない。


『春のその くれないにほふ桃の花 下照る道に で立つをとめ』


 10代の女の子というのは、青春の眩しさというか、そこにいるだけで華がある。

 私も十年前はそうだったのだろうか。日本人藤木花でも、老いることのないこの神の分身でも、もう持てない輝きだ。



 ◇◇◇


 情報を求めて、商業ギルドニカ支部にやって来た。


 商業ギルド直営店での委託販売は新人期間のみなので、『猪鹿蝶』はあと半年だ。

 今のところ常設の店舗を持つつもりはないから、その後も商人をするなら露店か行商。


 日本での普段の買い物は、スーパーかドラッグストアだった。会計は値札どおりカード払い。

 商店街で店の人と話したり値切ったりという経験がないので、自分で商品を売るとなると、値切ってくるお客さんとの交渉とかが面倒かもなぁとは思う。


 まずはお試しで、旅行がてら、転移先を増やすためにも行商をしてみよう。


 商業ギルドは、行商人情報の取りまとめをしている。購買力が小さい村に行商人が被っては赤字なので、情報を共有しているのだ。

 固定の行商人がいない地区、引退予定で後継者がいない行商人のルート、村からの行商要請なんかの情報を教えてもらおう。

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