第48話 盗賊

 この国の王都は、辺境のニカ領からずっと西にある。いつか王都を観光したいので、ニカ領の西隣、ゴダール領を最初の行商ルートに選んだ。

 猪鹿蝶廃業までまだ半年あるし、気が向いた時にのんびりマップ埋めをしよう。



 冒険者フジの姿で、いつも農産物を買いに行っているサント町まで転移して西へ。

 街道だと人目があるので、街道沿いの山中を転移で移動しゴダール領に入る。

 獣や弱い魔物の気配はあるが、魔の山とは違って普通の山林だ。


(ん?)

 しばらく進んだ所で、人相の悪い男達が街道を上から見下ろせる岩陰にたむろしているのを見つけた。


(…盗賊?)

 ターゲットが街道を通るのを待ち伏せしてるんだろうか。

 透明人間(結界+迷彩+気配遮断)になって男達の背後に転移し聞き耳を立てると、聞くに耐えない下衆い話で盛り上がっている。犯罪者確定だ。


 目の前のグループは8人、少し離れた所にもう1グループいる。

(…面倒くさいけど、見逃したら絶対被害者が出るだろうし)


 とりあえず、盗賊2グループをそれぞれ土壁のドームで囲んだ。


「うわっ!!」

「なんだ!?」

 驚いた男達が中でギャーギャー騒いでいる。壁を壊そうとしているが無駄だ。


 この先のゴダール領東端の町で警備兵に連絡して、盗賊を引き取ってもらおう。アジトの捜索は警備兵がするだろう。


 東端の町まで私が盗賊を連れて行くのは嫌だ。拘束も運搬もやろうと思えばできるが、こんな不潔そうな男達と行動を共にしたくない。


 盗賊をこのままドームに閉じ込めておくなら、私が警備兵をここまで案内しなくてはならない。

 土壁は『警備兵が来たら自動で消える』ものではないので、盗賊をドームから出す時は私がその場にいる必要があるのだ。

(『○○したら』と条件付きで消えるようにするにはセンサーを組み込む感じにすればいいんじゃないかと思うが、今のところ成功していない。『○時間後に消える』とタイマーを付けることはできる)

 でも、警備兵と一緒に戻るのは面倒。


 そこで、土壁のドームに開けていた通気孔から、眠りキノコを数個潰して投げ入れた。スナ達がシホロ東ダンジョンで踏んだキノコだ。

 

 すぐにどちらのドームも静かになったので土壁を消し、眠っている男達をまとめて風魔法で街道脇に動かした。何度も木にぶつけてしまったが気にしない。


 男達に触りたくないので、ロープで縛ったりはせずこのまま転がしておく。眠りキノコの効果は個人差があるが、一日くらいは眠ったままらしいので問題ないだろう。


 それから、街道の通行人への説明用に『この男達は盗賊です。警備兵が来る予定です。』と長い木の板に書き、眠っている男達の上に置いた。


(一応、魔物避けしとくか)

 街道は魔物の出現が少ないが皆無ではない。盗賊とはいえ魔物の餌になるのはあんまりなので、魔物避けの香を焚く。

 香は薬師マジョルカの店で買った物だ。比較的安価で8時間くらいもつ。


 結界石ではないから、通行人に身ぐるみ剥がされたりボコボコにされる可能性は排除できないが、そこは私の関知するところではない。

 善良なソロ冒険者としては、町の警備兵に盗賊を転がしてる場所を伝えれば十分だろう。

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