第19話 猪鹿蝶

 商業ギルド ニカ支部の一階には、ギルド直営の売店がある。

 その奥の一角が、新人支援を目的とした、委託販売コーナーになっている。

 そこに商品を置けるのは商業ギルドに登録してから一年以内の者。利用料は借りる場所とサイズで異なる。


 私はとりあえず、大型冷蔵庫サイズのラックの上半分のスペースを半月前から借りている。

 利用料は月銀貨3枚、手数料は売上げの30%。

 利用者は、屋号を記入した値札を商品に付け、借りた場所に並べるだけ。会計は商業ギルドの店員がしてくれる。自分で露店を出すより楽だ。


 委託販売にあたり、売る商品と、屋号を決める必要があった。


 生産の才能は素のままだ。焼き菓子は作れるけど売るほどの腕ではないし、こちらの世界の材料で作っても商品としては普通だろう。利益も薄い。


 日本の四季の物は一年経ってみないことには無限に出せるかわからないので、自分で消費する可能性がある物は売りたくない。


 日本の四季のいらない物…宝飾品、置物、人形やおもちゃ、団体スポーツ用品、私には弾けない楽器、サイズが合わない服や靴…。

 それらの中から、技術や品質がこちらの世界の水準とかけ離れていない物で、かつ高価すぎない物を並べることにした。


(…これが私のセンスと思われたくない)

 お洒落感が皆無なディスプレイになった。

(まぁ一年限定だし、委託販売コーナーは元々統一感ないし)


 屋号は『猪鹿蝶いのしかちょう』にした。いっそ、違う方向で。最近馴染みがある魔猪肉と魔鹿肉からの連想なのは否めない。この屋号は委託販売限定にしよう。


 週に2回商業ギルドに通って、商品を補充する。値段は他の店を参考にした。

 アクセサリーが一番売れるようだ。こんなの買う人いるのかな?と思っていた木彫りの置物や焼き物の人形等もぼちぼち売れている。

 これなら、売り場を増やしてもいいかもしれない。


 ◇◇◇


 10月から、ラックの上から下まで借りることにした。利用料は月銀貨5枚。


 焼き鳥と枝豆、いぶりがっこをつまみにビールを飲みながら、日本の四季画面で秋冬の主力商品を選んでいく。


 服と靴は品質が違いすぎるので今は委託販売に出していないのだが、編み物なら大丈夫だろう。

 男性用と子供用のセーター、手袋、帽子等を日本の四季から猪鹿蝶ボックスに移す。


 日本の四季に、古着屋やリサイクルショップもあった。

 お古の子供用セーターがある。十分着られるし、こちらの古着屋ではもっと傷んだ物が売られていたりする。

 猪鹿蝶では新品しか売っていないし、私が持っていても使わないから、孤児院の子供達に着てもらおうかな。

 寒くなる前に、各町の孤児院に行こう。

 

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