第18話 [閑話] ゴリラ1号の恋
冒険者ギルド イキュ支部の裏にある職員寮の食堂で、副ギルドマスターのロランが夕食のチキンソテーを食べていると、一人息子のアランが向かいに座った。
「今日もフジさんに剣の稽古をつけたの?」
「ああ」
息子は20歳。冒険者ギルド イキュ支部で受付をしている。
子供の頃から自分が鍛えていたので、事務職らしからぬ逞しさだ。
自分はBランク冒険者で、以前は領都ニカを拠点にしていた。
息子が8歳のとき、妻が流行病で亡くなった。護衛で家を空けていた自分が妻の死を知ったのは葬式の半月後だった。その間息子はサント町の妻の実家に身を寄せていた。かわいそうな事をした。
自分はパーティを抜けてイキュ町に家を借り、息子と二人で暮らし始めた。イキュ町なら日帰りで魔の山で稼げるからだ。
数年後、冒険者ギルド イキュ支部に欠員が出た際に、ギルド職員となった。
7年間父子二人で暮らし、息子が15歳で家を出て一人になってからは職員寮で暮らしている。
息子は冒険者になるのを嫌がって、領都ニカの商店で働いていたのだが、2年前にイキュ町に戻った。
ちょうどイキュ支部の男性職員が婿入りのため退職予定だったので、その後任に息子を雇ってもらえた。
息子本人に聞いたわけではなく、解体担当のニルスからの情報なのだが、息子が商店を辞めたのは店主の娘に失恋したのが理由らしい。
息子はその娘を恋人と思っていたそうだが、ある日、別の男との結婚式の日取りを知らされたとのこと。
娘の裏切りか、それとも…息子の勘違いか。
「お疲れ」
解体担当のニルスが息子の隣に座った。
「アランは今日も女神と進展なしか?」
「ちょっ…! 父さんの前だから!」
何人目の女神だ、とロランは思う。
息子は惚れっぽいのだ。年上の美女にすぐ惚れる。
2年前の傷心も、新しい恋ですぐに上書きされていた。惚れた相手は年上の女性冒険者だったが、ヘタレで何もできず、その女性がイキュ町を離れると同時に失恋していた。
そして、息子の惚れっぽさを知る女性の同僚や友達には相手にされない。
フジは1か月前にイキュ町に現れた。
新人だが、安定してCランクの魔猪を持ち込んでいる。攻撃手段が複数あるようで、杖は持っていないが魔術師だろう。剣は初心者だったが才能がある。
さらに、とびきりの美女だ。
フードを目深に被っているが、動けば顔が見える。受付の椅子に座っている息子は下からフードの中が見えただろう。面食いの息子が惚れないわけがない。
息子は自分とは恋愛話をしたくないようだから、知らないふりをしている。
まあ、ギルド中が知っているが。
そして、自分への伝言を伝えに訓練場にやって来た息子を見て、フジが「あ、ゴリラ1号」とつぶやいた事は、息子には黙っている。
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