ギフト【日本の四季】の勇者

第1話 勇者か聖者

「勇者と聖者、どっちにする?」

 は? なにその二択。


 ◇◇◇


 気付いたら、日本家屋の縁側に座っていた。

 目の前には、絵日記のような日本の田舎の夏の風景。風鈴の音と蝉の声。

 私の隣には、浴衣を着た、長い金髪に金目のどう見ても日本人じゃない性別不明の美形。


 え? ここどこ? 寝てからここまでの記憶がないんだけど。

 え、誰? その髪ヅラ? とカラコン? 金属的キラキラで眩しい。


「勇者は身体能力と、治癒魔法及び支援魔法以外の魔法の能力が高く、聖者は治癒魔法及び支援魔法と、生産の能力が高いよ」


 何これゲーム? 誰か勝手に私にギア付けた?


「特に使命がある訳じゃないから、気負わなくていいよ。私の世界に『揺らぎ』が欲しいだけなんだ。異物として、ただ存在してくれればいい」


「あの、一旦現実に戻りたいんですけど」

 よくわからないので、ログアウトしたい。


「ここが君の現実だよ。元の世界に戻ることはできない」

 元の世界。

「…私、死んだんですか?」

 …なんとなく、夢やゲームじゃないとわかっている。


「元の世界から消えて、君は君として、私の世界へ行く。元の肉体の消滅が死なら、死んだと言えるだろうけど」

「なんで…」

「そういう巡り合わせだった、ということだね」


 巡り合わせ…。


「あちらでの君の肉体は、私の分身だよ。現在の君の影響も受ける。性別とかね。神本体ではないから、万能じゃない。能力を取捨選択する必要がある。あまり細かく注文されても調整が面倒だから、勇者タイプと聖者タイプを用意してる」

 この人、いや柱?…神って言った。


「見た目の種族は人だね。顔は私と同じだけど、髪と目の色は好きに変えて。この黄金は神の色だからね。あと、望みの『ギフト』を一つ授けるよ」


「ギフト」


「喚ぶのは君で三人目なんだけどね。一人目は5年、二人目は9年で死んじゃって。不老だけど、不死じゃないから。君は死なないでほしいな」

 早くない⁉ なんで⁉ そんなに危険な世界なの⁉


「あの、その人達に授けたギフトと死因を教えていただくことはできますか?」

「いいよ。一人目は男性で、聖者を選んだ。『魔王と戦いたくない』って言って」

「魔王いるんですか⁉ さっき使命はないって言ってませんでした!?」

「いないよ。魔物はいるけどね。使命はないって説明を彼は聞いてなかったみたいで」

「……」


「それで、ギフトは【絶倫】。ハーレムに必要という理由だね。死因は、恋人の女性剣士による刺殺。殺害の動機は浮気が許せなかったから。彼に言わせると、浮気じゃなくて皆に本気だそうだけど」

 ドン引きだ。全く参考にならない。


「二人目は女性で、聖者を選んだ。理由は服を作るのが好きだから。ギフトは【美貌】」

「顔は神様のままなのでは?」

「そうなんだけどね。話を聞いてなかったみたい。まあギフトが有っても無くても同じ容貌だったね」

 …喚ばれる条件、『話を聞かない人』? 自覚がないだけで私も同類? 何か聞き漏らしてる?


「死因は、蘇生魔法を使ったため。蘇生魔法は自分の命が代償なんだ。生き返らせたのは飼い猫。その猫は服を着せられるのが嫌いで、あまり飼い主のこと好きじゃなかったみたいだけどね」

「……」

 愛猫のために、可愛い服を楽しそうに作る女性が目に浮かぶ。きっと、彼女にとっては心の拠り所だったんだろう。


「前の二人を見るに、突然世界を渡ると言われても話を聞ける精神状態じゃないのかもと思ってね。それで今回はリラックスしてもらおうと、背景と私の服装、喋り方を変えてみたんだ」

 それでこの縁側か。


「それで、君はどうする?」


 どうすると聞かれても…。でも、ちゃんと考えないと。


「勇者も病気になったり怪我をしたりしますか?」

「するよ。ただ、一般人よりずっと免疫力も治癒力も高い。物理及び魔法攻撃に対する防御力と、毒なんかの各種状態異常への耐性もある。死ぬのは、即死の攻撃や事故、長期間水と栄養を摂らない場合だね」


 知らない世界だ。他人を助ける能力より、自分を守る能力が欲しい。

 望みのギフトが貰えるなら、勇者にしよう。

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