第6話 枝
家の前に着いてすぐに、転移直前にアイテムボックスに入った物を確認する。
それは、世界樹の枝だった。60cm程の枝の先には若葉が付いている。
(世界樹が新居のお祝いをくれたのかな? ありがたい)
とりあえず、湧水を入れた花瓶に挿し、玄関横に置く。
(これ、挿し木できるかな?)
家の中に入る。綺麗な室内に気分が上がった。
まずはリビングに、昨晩見繕っておいたラグ、ソファ、テーブルを置いていく。
(うん、いい座り心地)
他の家具や家電製品を置く前にソファに座って、日本の四季からコーヒーと園芸の本を取り出した。
先に、挿し木の方法を調べよう。
[1~2時間水に浸ける→土を入れた鉢に挿し、たっぷり水やり→半日陰で管理。乾燥に気を付けてまめに水やり→1か月後、庭に植える]
先程挨拶したばかりの世界樹の下に戻り、また挨拶。
「枝をありがとうございました。挿し木にして育てたいので、土を分けてください」
森の気温を計り、鉢に土を入れて、世界樹に礼をして家に戻った。
(無事発根するといいなぁ)
◇◇◇
「はぁ~」
こちらの世界に来て初めての風呂だ。お湯は魔法で出した。洗浄魔法で汚れは取れるけど、やっぱり湯船に浸かりたい。
世界樹の枝を挿した鉢は、家の東側の庭に置いた。(家から約5m、結界で覆っている範囲内を庭と呼んでいる)
ここは世界樹の森より気温が高く、挿し木が大丈夫か心配になったので、結界内の温度を世界樹の森と同じ23度に保つようにした。
それと、結界に《迷彩》を重ねがけした。これで外からは家と庭が見えない。
風呂上がり、大画面で好きなバンドのライブの映像を見ながら、ソファに座ってシャンパンを飲む。つまみはオリーブとチーズのピエダングロワ。
以前はお酒を飲むとすぐ赤くなってあまり量は飲めなかったのだが、状態異常耐性があるこの体は酔わないようだ。
気持ち悪くならないのはいいけど、酩酊状態になれないのはかなり残念。あのふわふわ感もお酒の楽しみだったのに。
今日はリビングと寝室を調えて終わった。明日はキッチンと書斎の予定だ。
昼食はざるそば、夕食は名店の寿司にした。日本にいた時よりずっといい物を食べている。
(でももう新曲は聴けないし、ライブにも行けないな。小説や漫画の続きも読めない。…まあ、まだ聴いたことない曲も読んだことない本もいっぱいあるけど)
シャンパンを味わいながらこの数日を思い返す。
魔物とはいえ生き物なのに、魔鹿と魔猪に石槍を投げる時、緊張はしたけど躊躇はしなかった。そんな自分に今になって違和感を覚える。
魔蛇は向こうが先に攻撃してきたから私が反撃して当然だし、魔蜘蛛はあの見た目だから攻撃しても罪悪感は無い。
蛇からの流れで戦闘モードだったからだろうか? 勇者だからだろうか?
でもまぁ、シャンパンを一本空ける頃には、魔鹿と魔猪が美味しかったらまた狩ろう、と思っていた。
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