第10話 ビアガーデン

「ビールとフライドチキンで、銀貨1枚になります」


 屋台を出した。場所は、テンゴ村とシホロ町を結ぶ道の途中にある野営場だ。

 テンゴ村~シホロ町間には整地された野営場が2か所ある。今日はテンゴ村寄りの野営場にいる。星が綺麗だ。

 さて、初日の売上げはいくらになるだろうか。


 ◇◇◇


 イキュ町の翌日は、領都ニカに行ってみた。

 ニカには港がある。海に面したヨーロッパの地方都市のようだ。

 港には船、通りには人や馬車が多く、とても賑やか。中央広場には噴水があり、都庁舎も教会も大きくて立派だ。図書館や劇場もある。

 冒険者ギルドと、商業ギルドもあった。

 活気がある市場、たくさんの店、美味しそうな屋台。歩いているだけで楽しい。お金があったらもっと楽しいに違いない。


 というわけで、現金獲得のために商売だ。

 街中だと、決められた場所以外ダメとか出店料や税金が必要とかルールがあると思うので、街の外で出店することにした。


 魔の森で狩った魔物は、冒険者になってからギルドで売るつもりだ。

 なので、今回の商品は日本の四季から。夏で外ならビアガーデンでしょう!


 ◇◇◇


「嬢ちゃん、ビールおかわり」

「はい、どうぞ」


 メニューはビールとフライドチキンのみ。どちらも大銅貨5枚。会計が簡単だから。


 こちらの飲食物のレベルがわからないので、ビールは発泡酒、チキンは商店街の惣菜店のシンプルな味付けの物にしてみた。


「ビール美味いな! 冷えてて最高!」

「ありがとうございます」

 人と話すのは2週間ぶりだ。



 ◇◇◇


 屋台を始めるにあたり、髪と目の色を亜麻色に変えた。

 髪は、腰まであったのを肩甲骨の下あたりの長さで切った。揃っていないのでお金ができたら美容室に行かなくては。今は首の後ろで一つに括っている。


 飲食店でローブは変だから、ニカの屋台の店主を参考に、日本の四季でユニフォームを見繕った。

 焦げ茶色のキャスケットの帽子、生成りのシャツに茶色のパンツ、ベージュのエプロン、それに伊達眼鏡。

 高額だが、眼鏡はニカで売られていた。掛けている人もちらほらいた。


 屋台もニカで見たものを参考に、似たものを日本の四季から出した。テーマパークのワゴンみたいな感じ。

 それと、ビール用の陶器のジョッキ、チキン用の木の皿を用意した。

 あと必要なものは、


「ガゥッ!」

「ひっ」

 私の手を握ろうとした冒険者の男にカイが吠えた。


 それは、用心棒と、屋台を引く馬の代わりだ。

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