第37話 巣立ち
元旦。雪の積もった魔の山の中腹から初日の出を拝み、世界樹に初詣をする。
ダンジョンの離れで朝食にお雑煮を食べた後は滝の前に転移し、ちびが雛達に餌をやる隣で、日本料理店のおせちをつまみに日本酒を飲んだ。
まさか、異世界で新年を迎えるとはな。
◇◇◇
年始休み明けは、一番に商業ギルドに行った。
年末にヘイデンの店に飾ってあった物と同じ物を並べていたのだが、数日で結構売れていた。
日本の四季から猪鹿蝶ボックスに移しておいたクリスマスグッズや正月の縁起物、衣料品やアクセサリーを新たに並べる。
(うーん、すごいディスプレイ)
ヘイデンの店の飾り棚は現代アートっぽかったのに、こうも違うとは。
◇◇◇
1月中旬。商業ギルドで12月分の猪鹿蝶の売上金を受け取り、そこから今年分の会費と税金の支払いを済ませた。
(今日のランチは猫の手亭じゃなくて、ちょっと贅沢してスナに教えてもらった店にしようかな)
広場を歩いていると、見覚えがある女性がいた。ユイだ。
スナの拠点は領都ニカと言っていたから、スナ達も一緒かと見回したが、ユイ一人だった。今はハナの姿なので声はかけないが。
◇◇◇
ジャクとキョウは巣立ちした。
空っぽの巣を初めて見た時は、ダンジョン蛇にでも食べられたかと血の気が引いた。
二羽がちびの後をよたよた付いてくるのが見えて、心底ホッとした。不老勇者じゃなかったら数年は寿命が縮んだと思う。
現在、ジャクは茶色で大きさは普通の雀と同じくらい。キョウは薄い灰色で大きさはジャクの3倍くらい。キョウはもっと大きくなるはずだ。
二羽は餌を自分でも取るようになって動き回っている。
まだ幼鳥の羽でうまく飛べない。高い所から落ちたりして私はヒヤヒヤするけど、二羽は平気みたいだ。気にせずぽてぽて歩いては転んでいる。
他の魔物や冒険者に襲われないか心配だが、ずっと結界の中に閉じ込めておく訳にもいかない。
二羽は、私の指や手、肩に乗ってくれるようになった。頬や頭を指で撫でると、気持ちいいのかぐいぐいくる。
ちびも私の真似をして、二羽を枝で優しくカキカキしている。二羽はこれも気持ちいいようで、掻いてほしい所に枝先が当たるよう体をひねっている。
朝をちび達と過ごし、ダンジョン22、24階層で狩りや釣り。週に2回は商業ギルドに行って商品を並べ、カヒロさんと少しおしゃべり。領都ニカやサント町で買い物。たまに20階層でスキー。夜は晩酌しながら読書。最近の過ごし方はこんな感じだ。
◇◇◇
月末。1か月ぶりに冒険者ギルド出張所に納品に来た。午後2時頃は比較的冒険者が少ない。
「指名依頼?」
「はい、フジさんにダンジョンでの護衛依頼です」
23階層まで攻略済みなのを知られているとはいえ、私を指名?
スナ達以外とはほとんど喋っていないし、ダンジョンでは透明人間結界を使っているので見られてもいないはずだが。
「こちらが依頼票です。内容をご確認ください」
(え? なんでヘイデンが私に依頼?)
先月、店で冒険者割引のためにフジの冒険者タグを見せたが、それを覚えてて指名ってことはないだろう。
それに、ヘイデンは年末もダンジョンに潜ってたけど。
「護衛は2人。もう1人はDランクのユウマさんという剣士に決まっています」
(ユウマ。じゃあ、ユウマが私をヘイデンに推薦したのかな。ユイとスナはいないんだ)
依頼人はイケメンで護衛仲間は顔見知り。目的地はダンジョン21階層。初めての護衛としては、いいと思う。
朝はヘイデン達に結界を張ってちょっと抜けさせてもらって、ちび達に会いに行こう。
「この依頼、受けます」
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