第41話 エール

 二日目の夕方、目的地に着いた。

 ダンジョンギガンテアエケベリアという直径1m程の紫色の多肉植物の群生地だ。


 ヘイデンはここで魔河豚ふぐ毒の解毒薬の材料を作る。

 新年の宴会で魔河豚毒にあたった集団に在庫を使い切ったので、急遽この護衛依頼を出したそうだ。

 これから二日間、4時間おきにダンジョンギガンテアエケベリアに魔河豚毒と数種類の薬剤を混ぜた液体を注入するらしい。


 私が作業場所と野営地を覆う結界を張ると、ヘイデンは早速作業を始めた。


 私とユウマは野営の準備をする。ここで三泊することになる。

 テントは一人一張り。作業場所のそばにヘイデン、隣にユウマ、飲食スペースを挟んで向かいに私のテント。少し離れてアイベ達と馬車。

 離れの方が快適だが、緊急事態に備えテントで寝ることにしている。


 アイベとキョウの餌やりが済んだ頃、ヘイデンの1回目の作業が終わった。


「お待たせ。夕飯にしようか」

 ランタンの明かりに照らされたアウトドアテーブルの上に、ヘイデンがアイテムバッグから美味しそうな料理を出して並べていく。

 メニューは、野菜スープ、きのこのマリネ、牛ほほ肉の赤ワイン煮込み、ジャガイモのチーズガレット、パン。

 ちなみに朝はポタージュスープ、ソーセージ、ズッキーニのピクルス、パン。昼はミネストローネとベーグルサンド数種類だった。

 そして毎食デザートにフルーツが付く。


「ひとまず、往路お疲れ様でした。乾杯」

「乾杯。お疲れ様でした」

「カンパーイ!」


 目的地に着いたので、今夜はエールも出してくれた。

 ヘイデンと私は一杯だけ。ヘイデンは夜も作業をする必要があるから。私は日本のビールを飲み慣れててエールが口に合わないから。

 ユウマは何杯もおかわりしている。


「ヘイデン、もう一杯くれ」

「今日はこれでおしまい」

「フジの結界のおかげで夜の見張りいらないからいいじゃん」

「お前、前に酔った自分が何したか知らないの?」

「えっ…。な、何かした?」

「……」

「何だよ! 教えてくれ!」

「いや、俺も知らないけど」

「はぁ⁉ お前~! 焦っただろ!」

「ハハハ」


 ヘイデンは私には仕事モードだけど、こうしてると二人とも日本の居酒屋にいる男の子と変わらない。なんか人化した猟犬と蛇食鷲がじゃれ合ってるようにも見えてきた。

 

 楽しい食事の後は、食器と二人に洗浄魔法をかける。

「ありがとう」

「いえ。じゃあ、お先に失礼します。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「おやすみー」



 ◇◇◇


 三日目の朝。朝食の前にテントの中から22階層に転移して、ちびと緑茶を飲む。


「チュンチュン」

「ジャク、今日も可愛いね~」

 ジャクが私の空いた手の指に止まった。

 羽が生え変わり、現在の大きさは普通の雀の約1.5倍。茶色の丸っこい姿が可愛らしい。

 餌に生米を出してあげる。虫も食べるが、米の方が好きみたいだ。


 ちびの枝の上の巣は、今はジャクだけが使っている。

 キョウが普段どこで寝ているかは不明だ。この旅の間は、馬車の上の籠の中で寝ている。



 結界内は安全だが、一応午前は私、午後はユウマが護衛としてヘイデンの近くにいることにした。

 キョウは外に飛んでいった。夕方には戻るだろう。

 アイベは餌を出しておけばあまり動かないから心配ない。


 ダンジョンダチョウの卵をヘイデンの料理に使ってもらおうと思っていたのだが、この旅の間、食事は全て彼が前もって用意していた調理済みの物で、ダンジョンで料理をする予定はないようだ。


 なので、午後の自由時間は離れで卵料理を作ろうと思う。

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