第4話 湧水

 最寄りの町が西なので、逆の東に進んでみる。

 転移を使って行けるのは、目に見える範囲と、行ったことがある場所だ。

 自分の周りに結界を張り、何度か転移を繰り返す。ずっと森だ。


 初めて気配感知に魔物の反応があった。

(あっ、いた!)

 近くの木に大きな蛇が巻きついている。


 シュッ

「ひゃ!!」

 蛇は大きな口を開けて私に襲いかかろうとし、結界に阻まれた。

(こ、氷の矢!!)

 氷魔法で蛇を射る。焦って連続で10本ほど射て、うち蛇に刺さったのは4本だ。


(この的中率はどうなんだろう? …まぁ、倒せたからいいや)

 まだ心臓がバクバクしてる。

 アイテムボックスの分類を増やし、魔物ボックスに蛇を放り込んだ。


「異世界、怖…」


 元の場所からだいぶ離れたので、世界樹の影響が薄くなったようだ。気配感知に魔物が何匹も引っかかる。それに、気温が少し高くなった気がする。


 世界樹の周りを「世界樹の森」、その外の魔物が出る森を「魔の森」と呼ぶことにしよう。


 怖いけど、慣れるために《気配遮断》を使いながら魔物に近付こうと思う。

 結界がちゃんと効くことがわかったので、次からは冷静に攻撃しよう。それと、倒す前に鑑定を使ってみたい。

 

 ◇◇◇


 あれから、蜘蛛、鹿、猪の魔物に遭遇した。

 蜘蛛の魔物はこたつサイズでむちゃくちゃ気持ち悪かった。鹿と猪の魔物は、動物よりサイズが大きくて気配が違うだけだった。蜘蛛の後では可愛く見えた。


 気配遮断のおかげで、どの魔物にも先制攻撃ができた。

 蜘蛛は雷、鹿と猪は土魔法で出した石槍を投げて倒した。昨日の投擲練習の成果か、鹿は1投目が首に刺さり、猪は1投目が肩、2投目が頭に刺さって倒れた。

 身体能力を使っての初めての攻撃は楽勝だった。勇者クオリティ。

 

 アイテムボックスは容量無制限で、時間は経過しない。

 倒した魔物は自動で魔物ボックスに入る設定にした。「設定にした」と言っても、「そうしようと思ったらそうなる」だけだ。神の分身クオリティ。


 鑑定も使ってみた。図鑑を見るように種族名が出てくる。でも、ゲームのように個体の強さが数値化されたりはしない。…神の分身は万能じゃないからな。

 動植物が魔物化したタイプの種族名は、頭に「魔」が付くだけだった。というか、これは日本語に翻訳されたものだ。


 それと、魔鹿を見て(これ食べられるのかな?)と思ったら、『食用可』と情報が追加された。ちなみに魔蛇も魔猪も食用可だった。美味しいのかな?

 食用となると、敵を倒したというより獲物を狩った!って気になる。


 次の課題は、動いてる魔物に対処できるかだな。


 ◇◇◇


 森の中に池を見つけた。周りが少し開けているので、ここで昼食にする。


 椅子とテーブルを出し、赤いギンガムチェックのクロスをかけて、日本の四季メニューを開く。

「何食べようかな。ナポリピッツァ店のマルゲリータにしよう。ビール飲んじゃおっかな~」


 ひとまず、物理でも魔法でもちゃんと攻撃できて安心した。一仕事終えた猟師の気分だ。


「かーっ、昼のビール美味いっ。マルゲリータ美味いっ」

 ピザの後は、ブラッドオレンジのシャーベットを食べた。満足ー。


 マップを確認すると、現在地は世界樹から東北東に30kmくらいの位置だ。この森はどこまで広がってるんだろう。


 ちょっと池の周りを歩いてみよう。


(綺麗な池だな…)

 底から水が湧いている。鑑定すると『水 飲用可』と出た。


 柄杓を出して水を掬い、飲んでみる。

(冷たくて凄く美味しい…!)

 飲料水は日本の四季ボックスから取り出せるし、水魔法で出すこともできるが、今度からここの湧水を飲もう。


 ここに家を出そうかな。住んでみて問題があれば引っ越せばいいんだし。

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