第12話 魔狼のカイ
魔狼のそばに転移する。魔狼は私に気付いても立ち上がる元気がないようだ。
痩せてるな…。怪我はしてないようだし、空腹なだけ?
「お腹空いてるの? 私が屋台をやる間、用心棒をしてくれないかな? 引き受けてくれたら、さっき仕留めた魔鹿をあげる」
そう言ってアイテムボックスから魔鹿を出すと、それを見た魔狼はくるんと私にお腹を見せた。
鑑定『魔狼 従魔(短期)』
…チョロいな、おい。
「よし」
私と魔狼の間の檻を消すと、魔狼が魔鹿にかじりついた。うわ、ワイルド…。
狩りが下手なのかな? なんか残念な個体な気もするが、見た目はちゃんと怖いから良しとしよう。
拠点に魔狼を連れて帰り、アイベの厩舎から少し離して同じ物置を出す。
「お隣の魔山羊は仲間だから、食べたらダメだよ。仲良くしてね」
「ガゥ」
賢そうではある。雄でグレーの毛、大きさはボルゾイくらい。
洗浄をかけてブラッシングしたが、毛艶がいまいちだ。餌を食べさせねば。
名前は甲斐犬からとってカイにした。
こうして、私の日課に従魔達の世話が加わった。
◇◇◇
「名前なんていうの? シホロでデートしようよ」
「ウウー」
「可愛いね、店終わったらさ…」
「ウウー」
ここはイタリア文化圏か。
男性客が口説いてくるけど、カイが間に入るとあっさり引く。挨拶代わりだろう。
カイは客が言い寄ってこなければおとなしくしている。
が、しつこい人もいる。
「女が一人で屋台なんて危ないだろ。俺が守ってやるよ」
「ウウー」
「そこに立たれると邪魔です」
最初は親切で言ってくれているのだろうとやんわりお断りしていたのだが、男の自慢話が延々と続き、上から目線であれこれ言ってくるのでイライラしている。
ところで、人への鑑定だが、
『人』
これが、自己紹介と自慢話の後では、
『バロク
人 男性 32歳 冒険者Cランク』
となった。
…まぁ、名前を度忘れしたときは便利だ。もし自分が鑑定されてもこの程度なら安心。
(あっ! こいつ唸るカイに蹴り入れようとした!)
「やめてください! 私の従魔です」
雷落としてやろうか。
「どうせ大して儲かってないんだろ? 屋台やめたら?」
「あなたのような客の相手をするのが嫌なのでやめたくなりました」
「なんだと!」
ドンッ!
私に手を上げようとしたバロクが突き飛ばされた。
突き飛ばしたのはアイベだ。屋台の裏で寝てると思ってた。
「グエッ」
アイベは尻餅をついたバロクの腹を踏みつけている。やるな。
「おいっ、グエッ、やめさせろ!」
知るか。
バロクのパーティメンバーらしき男達が慌ててバロクをアイベの下から引きずり出す。
売上げはそこそこいったし、屋台は今日一日で店じまいにするかな。
アイベとカイに、たっぷり報酬の餌をあげよう。
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