第22話 準備書面

 ここまで、話しを前後させながら書きましたので、民事訴訟がどんな推移をするかは、ほぼお分かりになったと思いますが、その殆どは弁護士によって作成された「訴状」「準備書面」のやりとりで審議が進められていきます。


 原告が出す証拠となる文書には「甲〇号証」、被告からの文書には「乙〇号証」という番号が順次付けられて、訴状提出から結審まで、普通で1年以上、控訴審を含むと2年になることもザラにあります。


 姉であるAから詳しく事故の状況を聞いた弁護士W先生(強面の父親の方と違い、柔らかい雰囲気の息子さんが担当になった)が訴状を作り、裁判所と相手、それに姉に控えを送ってから1月ほどたってから第一回の裁判が行われました。


 この裁判は法廷で訴状の確認朗読とともに、裁判官が被告側に認否を確認します。

 被告側は準備書面の内容によって(修理金額は認める。過失割合は争う)争うことを裁判官に回答して確認し、いよいよ戦闘開始となります


 以後、毎月1回のペースで3者が法廷に集まり、郵送された「準備書面」によって双方交互に反論が提出され、それに対して証拠「〇号証」がだされ、こうした準備書面のやりとりによって、争点が明らかになっていきます。


 裁判官は、争点が明らかになった所で証人尋問にはいることを原告、被告、の弁護士に確認し、AとBによる証人尋問が行われます。

(通常、原告を甲、被告を乙とします)


 ですから証人尋問が行われるまでAとBが顔を合わすことはありませんし、刑事事件のドラマのように、検察と弁護士の激しいやりとりがあるわけではありませんから、民事訴訟は、刑事訴訟と比べると、かなり地味な展開になります。

 

 僕が裁判を書き続けていた理由の一つには、民事事件は、人間をやっていく上で参考になる教訓「誰にもあり得る」を、かなり含んでいるとおもわれたから……でした。


 以前コメントの返信欄にも書きましたが、交通事故は誰も望んで発生するわけではありません。

 それだけに事故発生時には、例え受傷者がいなかったとしても、精神的な打撃が大きいのです。

 飲酒運転をして、駐車している高級車に接触した。周りを見たら誰も気がついてない。

『知らないフリをして逃げよう』

 飲酒してなくても、心がそう働くのはよくあることです。ましてや飲酒、それにもまして相手が人だったらどうでしょう。もう、自分の人生終わったとまで思うかもしれませんよね。

 過去の轢き逃げ、当て逃げ事件の殆どは、そんな心理作用が働いた結果でした。


 その結果、事件は民事から刑事に移り、逮捕、収監、服役と、最悪の結末を招きます。


 でも、この最悪を避ける方法が……あります。

 

 それは、覚悟を決めること。そして誠意を尽くすことです。


 そうすると、不思議なことに必ず最悪を避ける方法が現れます。


『作為』というものはいつか破綻しますが、それに比べて真実は証明しやすくて壊れません。 

 この記事は事件としてはあまり面白くない記事ですが、僕も初めから内容を知った事件で、双方の心理作用まで、内容を割と深く知ることができたことと、それに身内の事なので個人情報に係わることも、ある程度のことまで書くことが出きること。それから、当時の資料がまだ手許にのこっていたことなどから、本件を書くことにしました。

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