第14話 交通事故 発生時の状況と対応

 相手の車の後ろに停車した姉は、まずお互いの怪我の有無を確認しようと、車を降り、相手の車の運転席側ドアの前に立った。


 ところが相手はいつまで待っても降りてこない。

 もし怪我をするとしたら、助手席側を損傷した相手ではなく、運転席側にダメージを受けた自分の方だ。

 その自分が何ともないのだから、相手が怪我をしていることは考えにくい。

 姉は痺れを切らしてウインドガラスをノックする。

 相手はそれでも降りてこないので、フロントガラスから覗き込むと、女性のドライバーがスマホを操作している。

 どうやら誰かと電話で会話している模様。

 結局車から降りてきたのは、車を停めてから5分も経ってからだという。

 

 それでも一応はスミマセンとは言ったらしい。

「続いて怪我はありませんか」と。


 姉は、「ぶっつけられた怪我は無いけど、あんまり長く待たされたんで血管が切れそうです」と言ってやったと嬉しそうに話す。

 相手はまったく動じることなく「保険を使って直したいので、警察に電話していいですか」というので「どうぞして」と言って「相手に全部やらせたの」ということらしい。


 やがて警察官が二人来て、相手が説明を始めたので、姉はその間に 義兄と電話して状況を説明した。

 姉は帰りに僕の所により、「まあ事故は起こってしまったのだから仕方が無い。双方に怪我が無かったことが何よりだ。相手の人もスポーツカーの格好いい車だけど、今はボディは部品で新品に変わるし、保険が使えるからそんなに懐は痛まないんでしょ」などと言っていたが、大間違いだ。


 姉は性善説の人だ。

 それに事故の影響で多分にハイになっていたのかも知れない。


 後からなら何とでも言えると姉は言う。それは確かにそうではあるが、それにしても脳天気だ。


 スマホを取りだしたのなら、電話よりも、せめて現場の状況とか、双方の車両の損傷の状態とか2台の停車の状態などを写真に撮っておいて欲しかった。

 できれば会話も録音しておけば今後どれ程有利に働くか、計り知れない。


 相手は「保険を使って直したいので警察に連絡してもいいですか」と言った。

 この言い方は、損傷が軽易なときには保険を使わない。つまり警察に通報しないこともあり得ることを示唆していて、事故の対応に手慣れていることが伺える。


 これは保険を使うことで等級が下がり、修理代よりも保険代の方が高くなる場合に使う裏技だと言われているが、実際には暴力団などがわざと車を当てて現金をたかる方法で、重大なトラブルになる危険性があるから、どんな事故であっても必ず警察には届けるべきなのだ。


 そのために警察官は事故の当事者に対して、別々に事故の状況を訊くようにマニュアルでさだめられているのだ。

 姉は 義兄に電話した後、警察官に呼ばれて、「あの赤い車、トヨタ86という名前らしいんだけど、あれが奥さんのアクアと接触したという事でいいんですね」と言われて、どういう状態でぶつかってきたのか訊かれたらしい。

「もう後からいきなりドカンッて感じでどうなったのか判らないんです。相手の人は何ていってますか」姉は警官に尋ねた。 


 警察官は、「事故のショックでまったく覚えてないと言ってますがね。まあ自分が悪いようだと言っているのでよく話し合って下さい。実際には保険屋さん同士で話しがつくことが殆どです。結果が出たら私らにも連絡下さい」


 という事で、姉は私のアパートに寄り、ひとしきり騒いで帰って行った。


             つづく。

 

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