第10話 台湾のデジタル担当大臣って、中学中退なんだよね。

 そうだよ。あのオードリー・タン氏のことだよ。(韻は含んでないけど『香水』風に)


 本人の言によると、中退理由は、自分の能力以下のことを教わりに行くのは時間の無駄だから。それに幾つかの大学が受け入れてくれたから。

 勿論それはIQ160の下地と実績があってのこと。


 こんな人の存在を知ると、逆に高学歴なのに何の実績も残せてないって、恥ずかしいだろって言いたくなる。

 そもそも卒論の内容が『ここ』でこんな成果をだせました。っていうものじゃなければ、大学にいた意味が無い訳で……

 まあ、他の人にできない何かができる。とか、研究中ていうのでもいいんだけど……在学中の人……頑張れー。(星都ハナスさん、フレーズをお借りしました)


 何にしても本当に優秀な人間は学歴や出身校なんて、そんな低レベルのことはどうでもいいわけで、もっと切実な問題に悩まされている。

 

 日本の大学で一番問題なのは研究費が足りないって事だな。京大の中山先生でさえ、マラソンで募金活動してたってのは有名な話しだけど、これ、決して美談なんかじゃない。国の政治家は恥だと思えって話しだ。


「彼女は川添さんだ。(仮名。外国大学にいた日本人女性は検索されやすいので)資料と書類を届けてくれた」弟が野太い声で宮下に答える。

「そうなんすね。解らないことがあったら俺に聞いて下さい。部とか専攻何処ですか。俺より年上ッすよね」


「いえ。ここの大学ではないんです。能力的に学校名に相応しくないんで、あまり言いたくないんですけど一応経済を……3年に編入しました」

「そうなんっすね。三年に編入ってヤバイっすね」

「いえ、帰国子女なんでそう言う枠があるんです。前の大学からのスコアのおかげで。だから全然たいしたことなくて……言葉が難しくて……あなたの言葉も半分ぐらい分からなくって……それで成績もたいしたことがないんで、ほんとに学校名とか言いたくないんです」


 僕と弟は顔を見合わせてプッと笑った。だろうね。宮下の言葉は意味が反転するので僕達にも余り良く解らない。

 『ヤバイって何? それって美味しいの?』 川添さん、自分を控えめに表現してなにげに宮下をデスってる。


「そうなんすね。外国ってどこにいたんすか」

「アメリカです」

「じゃ学校は」

 弟が面倒くさそうに「MITだ」代わりに言う。


「はい。入ったのはハーバードですけど2年のとき提携校のMITに移りました」


 因みに ノーベル賞の数で言うと1901年以降、ハーバードが160個 MIT は96個だ。日本では京都大学由来が19個。東京大学由来が16個。名古屋大学由来が6個だ


 彼女の経済学に限って言えば、ハーバードの32個よりも、MITの34個と、ハーバードが追い上げてはいるが、MITが勝っている。


 これは2校の研究、開発能力が断トツに高いことを示していて、特筆すべきはこの両校が私立大学でありながら研究費が潤沢にある。ということだ。


 その理由の一つ。まず、授業料がメッチャ高い。

 次に商売をしている。企業から依頼を受けてシステムを開発したり、幾つかの大学と共同研究をして企業の要求に答えて巨額の収入を得ていたりする。

 何も言えなくなった宮下を放って置いて僕が訊いた。

「移ったのはどうしてなの?」

「丁度そのとき調べていたテーマの著者がMITで教鞭とっていたんですよ。それでハーバードのスコア提出して受講を希望していたら、僕の所に来て手伝ってくれないかということで、その先生凄く女性が好きで、女性を大切にしてくれる人で、日本人の私が珍しかったみたいなんです。それで呼んでくれたのかなって、後で思いましたけど」

「じゃあ、persuade (口説かれたり)とかなかった?」

「も、全然そんなことなくて、反対に、ほら日本人の、年長者をリスペクトする姿勢とか礼儀作法とかが凄く好きで。だから着物を着て和室でお茶を接待したときなんか、気が狂うんじゃ無いかと思うほど喜んで頂けました。特に障子を開け閉めして出入りするときなんか指の先まで見ているので、お師匠様の前でやるより緊張しました。多分それでExcellentって書いていただけたのかなって」


 弟が宮下の腹をズシッと殴って「どうよ。本物の大和撫子は」と言った。

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