第9話 高学歴自慢するやつ。    

 これは拙著「私が幸せになるために」の第1話にコメントをいただいたので、その裏話。


 弟の勤める大学に高学歴自慢の男がいた。

 そいつが最悪なのは勝手に自分だけで自慢してればいいものを、自分を引き立てるために相手の持ち物や環境すべてを批判するってことだ。


 逆に自分の持ち物は徹底して褒めるがそれはまあいいとしよう。


 例えば、彼が住んでいたマンションが耐震設備の手抜きを指摘されたときでさえも、外観のデザイン、居住空間の間取りのほか、聞いたことの無い設計デザイナーの名前を並べて褒めちぎり、耐震設備なんかなくってもどうってことないと言っていた。

 だから、そのマンションが地震で崩壊したとしても彼は本望のはずだ。

 持ち物を褒めて自慢をするという、その精神構造は僕にも理解はできる。

 『虎の威を借りる』という諺に類似するからだ。


 彼(宮下)がそんな男だと知らなかった初対面のとき、彼は実にさり気なく、僕の世界に入ってきた。


「ヨウさんって先生のお兄さんすよね。それで今学生って、何浪してたんすか。そこまでしてもこの大学に入いりたいもんなんすかね。ある意味凄くないすか。浪人のとき何やってたんすか?」

 普通の人はご存じだと思うのだが、この『凄くない』はすごいということで、すごく能力が低い。と言う事になる。(ああややこしい)


「まあ、浪人していた訳では無くて一応平凡大学の法科と院に行ってたんだよ」

「それで司法試験落ちまくったわけっすね」

「いや、一応ね、受かって、司法修習生もやったんだけどね。法律事務所にも勤めたんだけど、どうも法曹界に向いてないことが解ってね。それから動物のことを研究したくなった」

「……」

 僕の卒業した大学は彼から見ると格下。しかし年上だけど浪人したわけではない。この大学では僕が一年先輩。


 彼が僕をどう格付けしたのか聞いてみたい気はするのだが、その後、余り近付いてこなくなった。

 彼は会う人間全ての歳と学歴を知らなければ気が済まないみたいで、そうして勝手にランクを付けて、自分より下の者を見下したものの言い方をしていた。その優越感が嬉しいらしいのだ。

 そんな彼だったが、この日ヒョイとラボの奥から顔を出してきた。

「久しぶりっすね」

「そうでもないんだけどね」お前が近寄ってこなかっただけで。

「誰っすかこの人」

 ああやはりね。美人の彼女に引き寄せられて出てきたんだね。

 彼女(川添さん)はゴキブリ〇〇〇〇ではないんだけど。

 それってお前がゴキブリってことになるのか。

 続く

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