第51話 緋糸だよⅣ。初ドライブ(2)

 西神の家を出て、神戸西ICから高速道路に入ります。


 淡路サービスエリアで1度休憩して、それから徳島のお祖母ちゃん所に母からのお届け物を運ぶのが、今回のミッションで、コロナの渦中ではあるけれど、やむにやまれず私が行動しなければならなくなった……のだ……でございます。と言い訳を準備して、イザ。


 まあ、2週間前2回目の予防接種はしたし……少しだけ熱は出たけど、女性で若い子は熱出るらしいからどうってことないよ。

 母にそう言って安心させようとしたら「そう言えば私も熱出たな」っと、急にご近所に熱出ましたアピールだ。

 そういうことを言うことが、おばさんになってるんだってこと、気がつかないのが我が母ながら痛い。


 西神ってさ、住宅っていうか、町自体が山の上にある訳ですよ。

 だから坂道発進は、教習所科目としては必修なわけ。

 限定無しの免許をとる皆様には文字通りの一つの山で、アクセルとクラッチをうまく合わせて、下がらず急発進にならずエンストもせず、ジワっと発進しなければいけません。 わたくし、参考までに教習所でやらせて貰ったけど、もうむずいのなんのって、全っ然できませんでした。(平地でも1度エンストしたし)

 

 ところが、今のオートマ日本車は、坂道で下がらない機能がついてるんですよね。

 ブレーキ踏んでる右足を普通にアクセルに移しても車が下がらない。


 ところがところが。

 800万円するベンツにはそれがついてない。

 だからサイドブレーキを引いておいて、アクセルをふかすと同時にサイドを緩める。

 しかもこの車、サイドブレーキのワイヤが伸びてるとかで、坂がきついと普通の力で引いたぐらいでは効かなくて、ズルズルさがるではないか。だからサイドブレーキは思いっきり引かなくてはならないから、緩めるにも力が要る。


 それをしないで、Pつまり、パーキングで止めると、右足をブレーキから緩めると同時に車重がギアにかかってシフトレバーがPから抜けなくなるという。

「めんどうくさー」ブチブチと文句を言うとヨウは「つまり基本を忠実にやれという事だ」とひと言の正論で終わらす。


 なんかさ

 声が聞こえるんですよ。ベンちゃんの。

「ふんッそんな低レベルの文句言う奴は俺に乗るんじゃねぇ」とかいってる。

 そういうと、ヨウが隣で馬鹿笑いするけどさ。聞こえるんだもの。


 だから私も言い返す。「ケッ。800万もするくせにサイドブレーキのワイヤ一本緩んだままのくせしやがって。日本で200キロだしたこともないくせに高い燃料バカバカ喰いやがって。俺は200キロ出るんだぞって、できてもやれないこと、なに自慢してるのよ。バカじゃないの」

 そう言うと急にベンの声が聞こえなくなる。


 そのとき、なんていうか、凄い高性能な竜が大事にされてガレージから出して貰えず、ただ磨かれているうちに年取っちゃった。

 そんなメルセデスのイメージが沸いてきた。

 だから、

「君、可哀想な奴なんだね。よし。せめて私が今回君の能力の半分だけでもださせてやるよ」

 そう言って私達は少し仲良しになった。(気がした)


 つづきますよ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る