第50話 緋糸だよⅢ。初ドライブ(1)
車の免許を取りました。勿論普通免許でオートマ。(いや、勿論ってことはないよな)
行きたいところに行けるんだよなあ。何か嬉しい。
ヨウが私の中坊のころのエピソードを書いていたけど、いつのまにか(って、意識障害か?)自分で運転する事ができる年になっております。
ところが、母が車を貸してくれない。
理由は、
新車だから傷つけられたくない(だったらアクアのまんまでよかったじゃん)
軽だから事故の時に受ける衝撃が大きい(まさに、ヨウが今、首突っ込んでる頸椎損傷事故の態様だもんね)
ターボがついてるからスピードが出て危険だ。(いや、それはないわ、ママ。論点が違うし。第1それならどうして制限速度で走る人がターボ車買ったのよ)
こんな時はヨウに八つ当たりする。「免許取った意味ないじゃん」
「じゃあ免許取得祝いに、姉さんが言ったことを全部クリアできる車を持ってきてやるから、ドライブで行く場所とルートを計画しとけ。因みにナビは付いているけど操作を覚える暇がないだろ」
「確かにそうだよね。さすがヨウちゃん。大好きよ」ってそのときはそれぐらいの感じだった。
だけど初めてって、あんなに余裕がなくなるものだなんて全然思わなかった。ナビなんか操作どころか見る事さえもできなかったし。
私のイメージは、好きなCDかけて口遊みながら、景色を楽しんで、交差点で道を譲ってくれた人には軽くお辞儀をして……、素敵な喫茶かレストランみつけたらお茶とか食事をして、道の駅では地元の野菜とかを買って帰る……「ねえ見て。新鮮でしょ。それに安かったんだよ」……なんてさ。
ところがさ。
朝、ヨウが乗ってきた車を見た私の第一声
「なに!この車」だもんね。
「これか。メルセデスベンツSLK。電動オープンの2シータースポーツクーペ」
「いやいやいや。これはないわ。ヨウちゃん。無理、ムリむり。私、初心者だよ。初めての初ドライブなんだからね。いきなりの高級外車って何考えてるのよ」
「初めてじゃねえ初ドライブってのがあったら見せてくれ」って、なにその巻き舌。
ヨウちゃん性格変わってない? それもしかしてベンツ口調って言う?
「バカ。そんなものがあるか。高級っても16年の中古だし、頑丈で耐衝撃性能はトップクラス。ターボはちゃんとついてない。だが踏み込めば走るし、保険は完備してるし、今のお前が乗れるこれ以上条件を備えている車はないんだぞ。今これに乗らなければ運転感覚はどんどん衰えて、何も乗れなくなりお前は一生ペーパードライバーで終わる。免許証はタダの身分証明書だ。そうならないために俺の貴重な時間をお前に提供してるんだからな」
メタボロに言われて、何も言い返せない。
ウーン。でもよく見れば前は長いけど後ろは短い。幅も教習所の車と大して変わらないように見えたのはオープンになっていたせいかもしれないけど。
「いいよ。分かった。じゃあ頑張って運転しますからよろしくお願いします。ベンツさん」 折角、決意を新たに覚悟を決めたのに、「バカ。何をたかが車にムキになってるんだ」ってにべもない。
「それからオーナーはベンツと言われることを嫌うから、メルセデスって言ってくれ」
どこまでも面倒くさい車だこと。
座席に座ってポジションを決めるとメモリーにその位置が記憶される。キーを抜くとシートは自動で下がり、キーを入れるとシートがメモリー位置まで勝手に戻る。屋根もスイッチ一つでトランクに収納出来るし、バッテリーは大丈夫かしら。そっちの方が心配だわ。
バックミラーの位置も決める。
方向指示器レバーが左で、日本車のワイパーと逆になってる。でもワイパーは、ガラスに水滴が付いたら勝手に動くそうだ。ライト関係は右パネルにあるダイヤルを廻すがautoにしとけばそれでいいっと。
シフトレバーは直線で、上のパーキングからバック、ニュートラル、ドライブ。ドライブ位置で右に倒すとシフトアップ。左がシフトダウンだけど、高速道路で触るといきなりエンジンブレーキの状態になり危険だから、走行中はレバーに触らず、Dだけで走ること。
ヨウちゃんに左タイヤの前に立って貰い、車幅とタイヤ位置を確認してから、恐る恐る教習所のコースに慣熟走行にでた。
つづきます。
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