第52話 緋糸だよⅤ 初ドライブ(3)

 淡路SAでは、遠く離れた所に駐車して、前後左右の4方向に若葉マークを貼り、他の車を牽制した。

 ドライバーはともかく、助手席側に乗っている人が、うっかりドアを開けてこちらのドアに笑窪マークを付けることがよくあると聞いていたし、母が、ぶつけられてもぶつけるな。修理費用はすべてあんたのアルバイトで賄うからね。と言われていたからでもある。

 走行の時は若葉マークを四枚後ろに並べて貼る。

  

 左車線を時速100キロで走ると、結構前の車に追いつく。だけどこの追い越しは問題ない。 右後方を確認してから方向指示器は左のレバーだからね。と意識するだけだ。


 難しいのは、遅い車がそれよりもう少し遅い車を追い越しているときだ。

 車間距離の取り方が下手な私はすぐに右車線で追い越し中の車に追いついてしまう。

 するとヨウちゃんが「遅い車をせっついても早くはならない。車間を開けて追い越しが終わるまで待っとけ」っていう。

 煽ってるんじゃないんだけどね。でもこの車で車間詰めたら、人にはそう見えるって事なのね。


 高松道の板野ICで降りて一般道を走り、藍住インターから徳島道に入る。

 此の道は一車線で制限速度が70キロだから80キロで走ればいい。安定走行……と思っていたらヨウがバックミラーをトントンと叩く。見れば後ろに五台ぐらいが連なっているではないか。

「これって私が遅いってことよね」

「そうなるな」

 自分より速い車に追いつかれたときの対処は速やかに道を譲るんだっけ。

 でも避ける道はないし、これ以上スピード出したら恐いのはお巡りさんだ。

 初ドライブで交通違反の切符切られたくなんかないよ。

「どうしよ」

「自分で考えろ。安全に係わる間違いを犯していたら注意してやる」


 ということは、安全性か利便性。どちらを重視すべきか、ということになる。


 私は先ず5キロだけスピードアップした。

 理由は後続車の数が圧倒的に多い。ということは、世間の一般常識ではこの道は通常80キロ以上の速度で利用されているという事だからだ。

 そしてこの道にはスピードの取り締まり装置が無い事を知っている私の、世間の常識への最大限の譲歩だ。


 でも私はコンプライアンスを重視する。だから断固としてそれ以上のスピードは出さずにこの先の2車線になるところまで、85キロをキープすることにした。


 自動車専用道路の70キロという制限速度が、どういった意図で設定されているのかは私は知らない。

 多分、道路が車から受ける衝撃などによる耐久性の問題とか、カーブや雨などのウエット状態で道路が車に与えることができる安全性などが考慮されているのであろう事は想像出来る。

 だから、私の後ろにずらっと並んだ車両は、文句があるなら私では無く、徳島県政に言うべきなのだ。


まだ続けます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る