第4話も一時停止違反

 姉が交通違反で検挙されたと聞いてぶっ飛んだ。


 いや、そんなことはないだろう。彼女は普段から順法精神が高い。

 どれくらい高いかというと、30キロ制限の所を30キロで走り50キロ制限の所を50キロで走る。こんなドライバーを十人も1車線道路に入れたら、途端に渋滞することは間違いない。決して自分の前に居て欲しくない遵法ドライバーだ。


 一月前に東部競技場まで運んだ姪の緋糸ひいとの母親が、つまりこの私の姉である。姪は母親のそんな運転を知っていたからこそ、私に搬送を頼んだのである。まあ期待に応えることはできなかったが。


 そんな姉が一時停止違反で捕まった。いや正しくは検挙された。

 場所は図らずも私が一時停止して姪にイチャモンをつけられたあの交差点である。

 但し方向は逆で、東部競技場に緋糸を迎えに行って帰りの出来事だ。


 警察車両は姉から見て交差点の左方40メートルほどの所に停止していたそうだ。


 ハザードとライトを点けていたので眩しくて、パトカーだとは判らなかったらしい。だが、警察車両だろうと、自衛隊の戦車だろうと、ガンダムが止まっていたってそんなことは彼女にとって関係の無いことだ。いつものように一時停止。左右確認して、左に止まっている車(パトカー)が動きそうにないので発進した。


 途端にサイレンが鳴り赤灯がパカパカと点き、拡声器が止まりなさいと、「まるでライオンのように吠えた」らしい。

 姉は一時停止をしたと言い張った。「だからこの車が」とパトを指し、「停まっていたのも知ってるし、動かないことを確認したから私は動きました」

 真っ当な主張である。


 だが警察官は「運転手さん。あんたのは一時停止では無く徐行です」と言ったらしい。

「一時停止は少なくとも3秒以上停止して安全を確認してから動かないと」

「いえ、2秒は止まっていましたよ」


「運転手さんブレーキを踏み続けていなかったでしょう。こちらから見てたらブレーキランプは点いてなかったし、タイヤは転がってましたからとても危ない状態でした。こちらは二人で見てたから間違いないの」

「こちらだって二人で見てましたけど。それに危ないって何にですか。他の車も居なかったし、ハンドルも握ってたしブレーキも踏んでましたよ」

「この前ここでオートバイが事故したの。だから安全のために見ていたんだけどね」

「ここでオートバイの事故って、大方一年も前じゃないですか」


 警官はそれには答えず姪を見て言った。


「あんたは娘さん? 免許持ってないよね。よく判らない状態で適当なことを言うと偽証罪っていう罪になるからね。気をつけてね」


 それって恫喝とか脅迫とかじゃないの? 姉はポカンと口を開けて言葉を失ったらしい。だが、姪は「はい。分かりました」と素直に答え、尚且つ質問までしたという。(因みに姪は16歳未満なので民事訴訟法201条2項によって、宣誓の意味が理解出来ない者と同等に扱われ、宣誓をさせてはならない。という条項があるため、宣誓出来ないものは偽証罪に問われない)


 続く

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