第36話 控訴理由書 2

「そこ!?」


 という表現のしかた、僕は好きです。

 ただ文学的には評価されてないようですが。

 

 でもですよ。残念ながら、美醜、ビジュアルによる扱いの差、というものは間違いなくありますね。


「美人と言うだけで判決に差が出るのなんか絶対許せない」という姉にしたところで、独身で免許取り立ての頃、交差点で停止車両に追突して自分が悪いと言っているのに、警察官に一方的に庇護されたそうですから。

 

 曰く「怪我とか具合が悪いところとかありませんか? 前の車はちゃんとブレーキランプつきましたか? 慰謝料とか請求されてませんか」などなど。


 いえ、1審の判事がどうとか、Bさんがどうとかでは、決してないのですよ。

 彼がそう言ったのはどうしても理解できない部分があり、それをそのひと言でかたづけてみた――と、ふざけただけで……。


 でも、これ読んでる人の中にも美人だからって優遇された人、結構居るんじゃ無いでしょうか。知らんけど※


 そんな雑談を酒飲みながら、緋糸を交えた5人でして、姉の家で寝泊まりした翌、日曜日の早朝、僕達は巻き尺であるとかグラフ用紙を付けた画板とかを持って現場に行き、見取り図を作ることにしました。


 とにかく正確なベースを作り、その上に準備書面と各証拠を当て嵌めていこうということです。

 ここから1部、デアル調を用いた文体に変えますので、一息ついて読み進んで下さい。

  ※


 現場は、西から東に向かう二車線道路で、右に緩いカーブをしているが見通しは良い。


 図面の基準点は消防署建物西端より西に38メートル後退した交差点の中央分離帯の端とした。

 また、基準点から西に距離を取る場合は後退。東に距離をとる場合を進むと表現することがある。


 この表現法によって基準点から更に約23メートル西に後退した道路上が、Aの言う事故現場である。


 Bの主張する事故現場は、同基準から東に約38メートル進んだ消防署の事務所西端付近で、隣接されたガレージには消防車、救急車が待機している。


 ガレージ前の中央分離帯は、基準点から38メートルの位置、(つまり消防署建造物の西端)から東に向かって14.2メートルに渡って削除されている。


 この中央分離帯が削除されている理由は、緊急車両が道路を横断して出動することを可能ならしめる為で、直接西に向いた車線に進入することを目的として削除されている。このため削除されている部分には白いペイントで斜線が引かれ、『停止禁止』の文字が書かれている。


 Bの供述によると、この削除されている場所を利用してUターンしようとする車が右方向指示器を点けて停止して、対向車がなくなるのをまっていた。(右折待機車両)

 その後に左第一車線に車線変更ができなかった3台の車が停止していた。(合計4両)

 Bは交差点に入ったところで前方のその状況を目視し、(被告第1準備書面によると、左方向指示器を出しながら)ブレーキをかけ始める。

 そしてすでに停止している前の車両の後に停止直前、先頭から二台目の車が左方向指示器を出して車線変更したので、自分も行けるかなと思いルームミラーで後方確認をした。

 すると白かシルバーの車らしきものが見えはしたが、十分間に合うと思い(本人証言によると)左方向指示器を出すと同時にハンドルを左に切った。

 すると約10秒ぐらいしてからAの車が来て自分の車と接触した。



「では正確な距離が出たので疑問に思ったことを口に出してみてくれ。それをBの立場に立って解決する。解決できなかった事を整理して控訴理由書を作る」


 その前に、前提を作る。

 中央分離帯の14.2メートルの間隙を、判決文の通りUターン場所と呼ぶことにした。

 それから準備書面と証言が食い違っていること(ウインカーや後方確認の有無など)も証明が困難なので、控訴審では無視されると思われるので今は省くことにした。


 

 疑問① 姉A。

「朝から3時間以上此処に居るのに、Uターンをする車が1台もいない。それは当然だと思うわ。だって手前に交差点があるんだから、それを通り越してここでUターンする意味が無い。だから本当に此処に右折車がいたかを疑問視できる」


 緋糸:「本当にそうだわ。南に向かう道路があるわけでもないのに」


 僕 :「でも誰かが一日中見ていた訳ではないし、あるいは交差点で右折し忘れた人がそこでターンしたのかも知れない。本当に珍しいことで、だからこそ第2車線を走っていた車両が3両も連なって止まることになったとしたら?言って置くが防犯カメラは設置されてないし、捜査権のない僕らのレベルではデーターの提供を要求出来ない」


 疑問② 義兄。

「W先生の質問でBは時速60キロぐらいで走っていたと答えてるよな」

「僕がW先生に要求して確認したことだから間違いない。それに停止車両に気がついた場所は交差点に入ってすぐだと言ってた」

「だったら交差点に入って停止車両に気がついてブレーキをかけている間に、前から2番目の車がウインカーを出して車線変更をするのを見たと。それからバックミラーを見て自分も行けると思ったと言ってる訳だが、ヨウちゃん60キロの車の停止距離は何メートルか知ってるか?」

「警察庁が出してる資料に、1秒で17メートルとなってる。緋糸計算して」

「1秒で16.6メートル進むわ。でも1秒じゃ止まれないわよね。3秒ぐらい? えっ! 49.8メートルも要るのよね? そういえば前にもこんな計算したことがある」


「それでは、仮にだけど車1台4メートルとして4台で16メートルの車列だ。車間距離2メートルとして3カ所で6メートルだ。合わせると22メートルの車列ということになる。そこで基準点から38メートル前方のUターン場所に距離を取り、そこから折り返して22メートルのところ。つまり基準点から16メートル東が、停止車両の最後尾ということになる。だから、時間は精々2秒か、あっても3秒しか無いのにそんなに沢山の事が出来るか? 交差点に入って気がついたとしたら最後尾まで精々二十数メートルしかない。急ブレーキどころかパニックブレーキだ。その間に、2番目の車が左方向指示器を出して車線変更をした。それで、自分はバックミラーを見て後方車両の確認をした訳だよな」

 

「うん。これは反論できないな。あと3メートル足して採用だね」

「なによ。その3メートルは」

「だって右・左折するためには、最低でも後輪の中心まで前に出なければ旋回できないだろ。お父さんは免許持ってない緋糸に解りやすく説明したのさ」


 するとY君が手を上げた。

「今のを聞いて、僕も決定的な疑問を見つけました」


 BとJに対する反撃の準備が整いつつあります。


  つづく




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