第23話 戦闘開始

 さて、戦闘開始です。

 Aが日常通り、道路の左車線を、(軽トラックの後ろについて)時速約50キロで走行中のところ、右車線後方から接近してきた、Bの運転する車がA車の右側面に接触して前方に出た。


 Aはこれを予見することも避けることもできなかったのだから、Bには100パーセントの過失がある。したがって、修理代と弁護士費用、及びこれらと年5分の利息を換算して支払え。


 という訴訟に対して、


 Bは、右車線を走行中のところ、前方に右折待機の車両とそれによって進路を塞がれたかたちで停止している3台の車両がいることを認めた。Bは減速をして車列最後尾に迫り、これを躱すために左に車線変更をした。

 この際、後方から高速で走行してきたAがB車の出した方向指示器に気がつかなくて避けきれなかったために発生した事故である。

 従って、責任・原因は否認し争う。

 と、まったく違う事故態様で争うことを宣告してきました。


 Aはこれに対して、自分の主張する事故態様が正しいことを証明しなければなりません。当然それには証拠が必要です。


 ここでもう一つ知っておいて欲しいこと。

 それは裁判が始まったら、我々が闘う相手はB達ではなく、裁判官である。ということです。

 民事裁判の多くは右という者と、左という者の争いです。でも殴り合う訳ではないので言葉だけではお互いに屈服しません。ですから相手を屈服させることよりも、裁判官に多くの証拠と明快な判断材料を提示して、心証を確保することです。


 そんな訳で以前にも書きましたが、大きな字で読みやすい書類にすること。ページ数が5枚から10枚程度。

 読む立場になれば、小さなポイントでビッシリ書かれた分厚い書類なんかウンザリしますよね。

 もう一つありました。

 裁判官が判決で書きやすい書面を準備すること。

 それは、法令の条項を示すことです。


 例えば、『……である。これは極めて危険な行為であって、法第7条の安全運転義務違反であり社会に与える影響が……』という書き方をすれば、根拠があるので判決理由を書きやすくなります。

 法曹界でうごめく殆どの皆様は、法令の条項、文言に対して印籠を振りかざされたようになる、という特質をもっています。


 次に書くこれは、書面の書き方というのとは違いますが仮に、どうしても現場状況を理解できないとします。

 我々はすぐに現場に行って確認しますが、裁判官はどうでしょう。

 動けません。

 実は裁判官は現場に赴き自ら捜査しないことが不文律になっています。

 これは、裁判官は、あくまで与えられ、提示された状況の範囲で判断することが公平な判断に繋がると、最高裁の機関で人事権を持つ事務総局から求められているからです。(法的には刑事訴訟法で、予審判事は証拠の押収、捜査のために現場に出向くことができる。ということになっていますし、民法では、裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。ということにはなっていますが)


 ですから、現場状況の図面、写真などを示して説明することはとても有効なのです。


 そんなわけで僕達は、早速両車の損壊状態の写真を写し、これを甲1号から甲4号証として証拠添付しました。

「これらの写真で明確なように、A車は後から前に。B車は前から後に流れる傷であって、B車が後方からA車に接触しながら前方に抜けたのは明らかである。

 という説明をつけて。


 すると今度はB達も、同じ写真を乙1号から乙4号証として、「A車が後方からB車に接触した傷であることが、これらの状態から見ても明らかである」と言ってきました。


 さて……。

 どうする。 

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