第21話 裁判 噓の反論はどう対処する?

 いただいたコメントで、水ぎわさんも書いておられますが、大変なのはこれからです。


 是非もう一度20話の最後、第3項を読んでみてください。


 『BがAの前にいたことは明らかであるのに、逆であるという不合理な主張をするのはAが高速で走行していた事実を隠したい意図によるとみられる』と書いてあります。


 これを読んだ姉はおそらく目が点になったことでしょう。そして怒りに鼻の穴を膨らませたに違いありません。

 

「あいつが私の前にいたって? それが明らかだって何? 何にも明らかになってないじゃないの? 私が高速で走行していた事実って、何が事実よ。私はいつも制限速度は守っているのに。 こんな噓を並べて私を悪者にして。そんなことが裁判で許されるの? おかしいでしょ」


 あと、2・30ぐらいは聞いた気がしますが 、まあそんなことを言って傷ついておりました。

 ちなみに、今回姉の弁護士先生は、姉が期待したズケズケとものをいう老先生のほうではなく、息子さんのW先生が担当してくれることになったそうです。

 逆に相手についたJ弁護士は、かなり辛辣な言葉を使うようで姉が当初望んでいた態様とまったく逆の形になったようです。


 ここで皆さんがよく勘違いしていることが一つあります。


 それは、裁判の場では真実のみを述べなくてはならない。噓をついたら偽証罪に問われることがある。という奴です。

 これは本当でしょうか。


 勿論本当です。(刑法169条)但しそれが適用されるのは「法律によって宣言した証人」であり、噓である事が客観的に証明された場合」なのです。


 Aは、噓によって深く傷つけられました。しかもこの噓を書いたのは弁護士です。

Aが普段からどれ程交通法規を守って運転しているのか知りもしない弁護士によって、高速で走行してそれを誤魔化すために逆の事故態様をでっち上げたと言われたのです。

 これで怒ったり傷つかない方がどうかしています。

 Aは自分の名誉を回復したいと思いました。ではどうすれば良いでしょう。


 先ず一つは、Aは自分がいかに普段から交通法規を守っているかという証拠を集めようと考えた

 現在、Aが時速約50キロで走っていたことを知っているのはAとBだけですが、Bは噓の元凶なので無視します。


 手っ取り早いのは証人を集めることです。それはすぐ集まるでしょう。僕やご近所など我々の『証言』の他に、警察の業務日誌が手に入れば、ある日ある時間に定期的に発生する渋滞が、Aの制限速度40キロを遵守した結果だということが明確な証拠になるかもしれません。(笑)


 もう一つは、被告第1準備書面に書いてあることが噓である事の証明ですが、逆に相手に真実である事の証明を要求する。という方法もあります。


 やり方はこちらの出す準備書面に、「Aが高速であった事を証明せよ」と書くだけのことですが、これは悪手です。やってはいけません。


 何故なら相手に発言と攻撃の機会を与えてしまい、そのうえ相手の作った偽のフィールドで争うことになるから。

 

 もし、僕がBの弁護士なら、

『Bは殆ど停止しかけていた。Aは第1走行車線を、時速50キロで走っていて、高速ではないと主張するが、停止直前のBから見れば50キロは明らかに高速なのであって、そもそも時速50キロが高速でないという感覚が本件事故を惹起じゃっき(ひきおこした)した。であるからBが出した方向指示器にも気がつかないのだ』

 と言います。

 

 ですからそんなところで争ってはいけないのです。

 相手の準備書面を読んでわかったことは、Bと弁護士JはAの主張する実際の事故態様を正しいと認識している。と言うことです。

 明らかな後方からの追突であり、そんな場面で争えばBが不利なのは当然です。だからこその架空で作り上げた場面で争おうとする彼らの作戦なのです。

 彼らは自分たちが作りだした偽のフィールドで争おうとしていますからそれにのってはいけません。


 つまり――Jが「AにはBが出した方向指示器が見えたはずだ。それがわからなかったのはAが老人なので視力が衰えているからで、注意力も散漫になっている」と言いました。

 そのときAは老人という言葉にカッとして「視力は悪くない」とまではいいのですが、「方向指示器は点滅してない」と言ってはいけないのです。

 そういうと、方向指示器が出た、出てないの争いになり、BがAよりも前にいたことが前提になってしまい、相手の作った偽のフィールドを認めた事になってしまいます。

 こんなふうに、相手はAの視力の低下、記憶力の衰えであるとか、反射神経の衰えなど、準備書面が来る度に身体的、精神的に中傷してきましたから、「大変になる」というのは、実にここのところのメンタリティの問題であるのです。

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