第28話 中央分離帯が削除された部分

 ご無沙汰しておりました。再び読みに来て下さったことを感謝します。 


 さて。

 僕がそうやって証拠資料を作っている間、あいても相変わらずマメに、Aの主張を切り崩そうと色々手を打ってきます。


 中盤を過ぎてくると、二人の弁護士先生のやり方に色がついてくるので、岡目八目といいますか結構見えてくるものがありますね。


 J先生は加害者側の不利な状況から、兎に角少しでも過失割合を有利にするために、或いはAが裁判を投げ出したくなるように、言いがかりに近い内容をコマゴマと仕掛けてきます。


 一方のW先生は、サイドミラーの後先関係の写真と、アジャスターの報告書により勝利を確信したかのように、ひたすらJ先生の言う矛盾点をかき集めているようでした。これは、終盤で一気に反撃しようという腹づもりのようです。


 この時点でB側のJ先生が準備書面に書いてきたことは、警察の『物件事故報告書』でAとBの主張する事故発生場所の違いを証明することでした。


 そしてソニー損保の出している『年齢の変化による視野角等視力の一般的な低下』資料によって、Aが、Bの左車線侵入の合図を見落とした。という論法を確立するとともに、Aが言うような、何も無い状況で左に車がいることを知っていて車線変更は今まで聞いたことがない。として、Aの主張を『有り得ない』と書いてきました。


 その有り得ない事をやったから事故になったんでしょうが。と、僕なんかは言いたいところですけどね。

 そして、J先生は「Aは後から来た車が追い抜き様、と言う。だが、これは後から車が来たのを知っている表現である。実際にそのような状況であれば自車を左に寄せる、或いはブレーキを踏んでやり過ごす、或いは加速して、後の車が左車線に入れるように空間の余裕を与えるなど、接触を避ける方法は幾らもあったはず」と、言葉尻を掴むようにネチネチ絡んできます。

 

 そして最後に必ず付けるひと言「それらのどれもした形跡が見られないのは虚偽の主張だからである」を付け足してAの神経を逆なでします。


 勿論、バックミラーに映った車がぶつかってくるかどうか何て分かるはずがないので、これは明らかに失当なのですが、自分で車を運転する機会の無い判事さんには、そんなものかと思わせるに充分なひと言になります。


 では、あらためて両者の主張する事故発生場所の違いです。

 Aは消防署の手前60メートル付近。Bは消防署の建物にかかったところ。つまり、中央分離帯が削除されている部分が始まった辺りです。


 Bの説明(事故の後日、保険担当者がBから聞いた)によると、先頭に右ウインカーを出した車が止まり、その後方に、先頭車両を躱すことができなかった3台の車が止まっていた。(これは最初から一貫している)


 自分もブレーキを踏み、前の車の後方2~3メートルの位置で停まりかけたが、停止直前に前から2台目の車が左車線に出たので、自分も行けると思いバックミラーを見ると車が居なかったのでウインカーを出すと同時にハンドルを切ったら、いつのまにか来ていたAの車が接触した。

 このときはバックミラーに映った車はいなかったのに、車線変更した途端に接触した、と言い、Aの車が高速であったとイメージさせようとしていた。

 だが、その後J弁護士によって、左り方向指示器を出しながら停止直前までブレーキを踏んだ、と書き直されていて、Aが方向指示器に気がつかなかったと、よりAの過失を強調する書き方に変更されている)


 いずれにしても、Bの主張する事故現場は消防署前の分離帯が削除された場所付近で、右折車両がいたとする場所です。

 また、そうでなければ右車線から左車線に移ろうとした事故態様が成り立ちません。


 J弁護士はそれを警察の『物件事故報告書の現場見取り図』によって証明しようとしました。

 この見取り図はBの説明によって警察官が書いたものですが、Googleearthで上空から見るとまったく正確ではありません。


 姉から聞いたところによると、二人の警察官はその見取り図をBの説明で作り、またBが「私の方が悪い」と言ったので、姉も含めて、簡単に片がつくと思ったのでしょう、結構いい加減な図面です。(ただし、この程度の人身を伴わない軽易な接触事故であれば、場所的なものにそれ程の精度は要求されないので、警察官の責めはありません)


 そもそも、なぜこの場所に右折車両が居たかということですが、この道路には中央分離帯が設けられているのですが、消防署の前だけ14メートルの幅で分離帯がありません。

 その訳は消防署から緊急車両が出動するとき、その切れ目によって西(右)向き車線にも行けるようにするためですが、Bの前にいた一般車両がその切れ目を利用してUターンをしようと、対向車が途切れるのを待っていた。だからその後ろを走っていた車も3台が後ろで停まっていたと言うわけです。


 ですから、この切れ目は、緊急車両待機場所(消防車、救急車のガレージ)の正面に設けられているのですが、警察の見取り図には、分離帯の切れ目の長さが消防車1台程度が通れる幅でしか書かれていないという適当さでした。


 Bが主張する事故の場所は、自分が主張する事故態様の、右車線で停止する理由付けに、どうしても必要な場所でした。

 

 ※「失当」という言葉は一般にはあまり使われませんが、この言葉は「当てはまらない」「適さない」などの意味を持ち相手の言い分を否定する意味で、「最初から意味を成さない説明である」というときに使われます。

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