第42話 エール

 今、僕の周りに3人、気にしている人が居る。


一人は車椅子に乗っている女性で、若いときから障害を持つ人々に勇気を与える活動をしてきた。そして今、人権について裁判で闘っている。


 もう一人はその彼女から生きる勇気を貰った、70台の男性で同じく頸椎損傷者。

 彼は若いとき、溺れている女性を助けようと海に飛び込み頸椎を損傷した。

 その為、手先と下半身が動かなくなり、自分の善意から返ってきた過酷な運命に、生きる希望を無くして自暴自棄になっているとき、上記の彼女が「女の私の方があんたなんかより余程辛くて苦しい。恥ずかしい下の世話までされて、生きにくくても頑張っている。男のくせに情けない」と叱咤されて、生きようと思った。

 彼は車の免許を取り、休日には家族を連れてドライブしたり、スキューバーのライセンスも取って、夏は海に潜るようになった。

 彼は今では、ベッドの中で空想した色々な便利グッズを、僕と会う度に作れというので、面白くはあるが少し面倒くさい。


 もう一人の女性は語学研究者で塾を創設した。癌がみつかり仕事を第一線から退いて治療を始めたが、ステージが進行している。

 若いときから休みなく走り続けた彼女が、病気のためとは言え、ようやく訪れた自由な時間に馳せる夢は、愛犬と車で旅をすることだ。


 僕は……

 不幸を嘆くものを助ける術を持たないが、


 頑張る者の勇気に涙して、応援することだけは、できる。

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