第7話 料理ができない男
緋糸が言った。
「ねえ、ヨウちゃん。ヨウちゃんの得意な料理って何?」
「ない」
言下に答える。
僕は料理ができないことを公言している。
「うそッ」姪は信じられないと言った顔をする。
そして、次に同情または憐れみの表情に変えて、「ヨウちゃんがモテない理由の一つが解った」という。
「ふんっ」僕は鼻で笑って「ほっといてくれ」という。
何も解らない小娘が、マスコミの料理番組に踊らせられてんじゃねえ。とも思う。
僕が中学生のとき死んだ父の姉(つまり伯母だ)がよく「男子厨房に立つべからず」といっていたのを僕は忠実に守っている。
「男の子はそんなことより勉強と仕事をしっかりしなさい。それを支えて人様の役に立つ旦那様にするのがお嫁さんの役割なの」
とも言った。
「だってヨウちゃん、大学のとき、十何年も一人でいたじゃない。そのときはご飯どうしてたの? そりゃあママが時々作りに行ってたのは知ってるけど」
「飯は電気釜が焚いてくれるし、肉の美味い焼き方、キャベツを切ることぐらいはできる。コンビニ弁当は優秀だし、ダチと食べに行ったり飲みに行ったりするから、住まいには料理の材料がない方がいい」
それより一つの大学でずっと留年している落第生みたいなその数え方、やめてもらいたいものだ。
生き方が変わった。だから大学に入り直して、人生の中で寝る時間と食の占める割合が少なくなった。それだけのことでしかない。
僕は結婚した相手と共働きをして家事を分担するつもりは無い。妻になる人にはしっかり家事と子供の世話をして貰い、その妻と子供をまもるのが僕の役目だと思っている。更に言うなら、料理のできない男は魅力が無いというのは料理に手抜きをしたい女性の陰謀だとさえ思っている。
「うわー信じられない。ヨウちゃんって最悪。絶対結婚したくないタイプだわ」
「うん。安心しろ。僕もお前とは結婚したくないから。それより考えてみろ。お前が好きになった男が、お前より頭が良くて仕事ができて料理がお前より上手だったら、どこにお前の存在価値がある? きをつけろ。愛は尊敬と努力のないところにいつまでもとどまってくれないぞ。綺麗や可愛いと言われて、それだけで結婚した女性は、年を取って容姿が衰えた途端に離婚されるのがおちだ。お前こそ俺に美味い物を食べさせて料理の腕を磨いたほうが良いんじゃないか」
まあ、そういう僕も、僕にそう言った伯母の主人も、料理ができない割には伯母の期待に何ひとつ応えてはいないのだが。
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