第25話 映画「鬼滅の刃」を緋糸と見た

 ちょっと話しは変わるけど。

 

 ひさし振りに映画を見た。 

 姪に、映画に連れて行ってほしいと頼まれたからだ。


 アニメなので、両親は行かない。


 夜の最終回の上映なので、友達同士でも行けないし、それに殆どの友達は見終わっているらしく、そんなわけで俺に頼みに来た。


 俺は別に見たかった訳でもないし、暇だったわけでもないが、思考を巡らせ「行く」か「行かない」かの意思の決定をして、それを伝えなければならない。


 行きたくない理由の一つは、車で行くので、夕食時に最近見つけた一寸うまいビールを飲むことができない。

 次に、原作が長編アニメだからだ。

 俺は延々と続く長編アニメが嫌いなのだ。延々のところをダラダラと書き替えてもいいとさえ思っている。

 もちろんそれは作者のせいではなく、編集、出版社のせいなのだろうが、そんなことに関係なく、俺は俳句、和歌、短歌のように凝縮された一握りの言葉が、手を開くと同時にほろほろと、ほどけるように豊かな意味を溢れさせていく、あの洗練された言葉の美しさが好きなのだ。


 行っても良い理由。

 今はそれほど重要な案件を抱えているわけでもないし、寝る時間を少々削れば対応できること。

 もう一つはLisaの歌を劇場の音響システムで聞いてみたいと思ったことだ。


 それに長編漫画ではあるが、原作は完結しているということなので、その潔よさがマイナスポイントを消した。


「わかった。移動時間を含めて開演40分前に家を出る。チケットはネットで買っておいてくれ」

 そう言うと、飛び上がるほど喜ぶので、とても良いことをしたような気分になる。

 

 姉夫婦も、厄介な問題がひとつ片付いて「なんかデートでもするみたい」と機嫌を取るしまつだ。


 すると緋糸も、言わなくてもいいひと言。

「私もね本当に見たいんじゃないけど、見とかないとグループ作業の細かいニュアンスが理解できないのよ。だけどそんなこと言うと連れてってくれる人に失礼だから、そこは喜ばないといけないと思う」

 親が俺の顔を見て沈黙する。

「お前さあ、それを俺の前で言う?」

 テレビの「残念な生き物」というタイトルが頭に浮かんだぞ。


 因みに映画のラストはまあまあだったかな。

 

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