第20話 交通事故裁判 反論された
事故当初、被害者である姉は「保険で全部治すと言ったじゃないですか」と、10割対0割を主張したのに対して、加害者であるBは7割対3割を主張してきました。
Bは公務員共済組合で保険の担当をしており、「お互いに動いている車両どうしの事故で10対0の事故など無いことを知っている私が、修理費用を全額持つなんて言うはずがない」と言うのが言い分です。
更にBの保険担当者は、保険担当者必携の別冊判例タイムズに載っている、追突ではない直進車妨害の例を示して「これが不満なら裁判になりますが、そうなったら1年以上2年はかかるし、消耗する時間も費用も膨大なものになりますよ」といったらしく、姉はここで「プツン」と切れて僕に電話してきたのでした。
あとで判ったのですが、Bについている二人の保険会社の担当者のうち、40歳台の男が役付の上席でNという名前。30歳台のSという男が、どうやら正社員として採用されるか、或いは昇任試験を受けているか、いずれかのようだと、姉の保険会社の担当者、Kさんからの情報として伝わって来ました。
実は、僕は姉が裁判にしたいと電話してきたときに、その前後のやり取りを詳しく聞いていました。
姉は、「事故を起こして人の命を危ない目にあわせておいて、それで裁判にするなんて聞いたことが無い。それならこっちから訴える」といったそうです。
すると相手のSは「それならいつでもお受けします」と即答したと言います。
僕は「勝てる。だからやればいい」と背中を押しました。
ぼくの判断理由は、Sの対応が全くなっていないことでした。
まるで子供の使いもいいところです。
そもそもSには裁判をするも受けるも、そんなことを決める権利も資格もありません。
正しくは「ご意見を持ち帰って、Bさんに伝え、おってご返事を致します」というのが当事者ではない者の言うべき言葉です。
これでは、仮にBが『裁判やるのなら、面倒くさいから10割でもいい。どうせ保険だし』と思っていたとしても、その退路は味方のSの手で塞がれた事になります。
こんな先走りする調整能力の無い者は必ずどこかで墓穴を掘るに違いありません。
やはり、裁判が結審した後でBから聞いたのですが、姉が出した訴状をみて、姉の本気度を知ったBはうんざりしたと言います。
「やめてよ」というのが偽らざる気持ちだったようですが、Sは弁護士の手配とともにBが作りだした噓の事故態様に肉付けをはじめたのです。
訴状を出してから2週間後、相手から、準備書面(1)が届きました。
今後、裁判は当分の間、この準備書面のやり取りで推移します。
これは言った言わないの無駄な論争を避けるためで、この書面を交互にやりとりする間に証拠を揃えたり、相手の不備を立証する資料を探したりするわけです。
法廷には双方の弁護士と裁判官だけが出廷し、書面の捕備修正があるか、意味のとり間違えはないかと、まったく事務的な内容の確認と次回の日時を摺り合わせて、大体1回の裁判は5分以内で終わります。
なので、裁判ワッチャアと言われる人達は、闘争が予想される、なるべく揉める裁判を探し出して傍聴します。いわゆる、人の不幸は蜜の味ってやつですね。
話しがずれました。
こちらの『訴状』に対して相手は次のように返答してきました。
第1 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 交通事故の発生は認めるが事故の態様は否認する。
とあります。
その上で、事故の態様について、
Bは右側車線を通行中、右折待機車両(右折をするために、対向車が居なくなるのを待っている車両)に進路を塞がれたのでブレーキをかけて停止直前、前から2台目の車が左車線に進路変更したので、自分も左第1車線に方向指示器を出して進路変更した。そのときに第1車線を後から走行してきたA車の右側面とBの左側面が接触した。
と、ありました。
2 責任原因は否認し争う。
まあこれも当然でしょう。自分が前にいたのだから追突したのではない。
と言っているわけです。
3 過失割合は否認し争う。
これも直進車妨害があるにしても、A車は前方注視義務があるのだから、それを怠ったとしてBの過失7割、Aの過失3割である。としています。
これによってBがAの前にいたことは明らかであるのに、逆であるという不合理な主張をするのはAが高速で走行していた事実を隠したい意図によるとみられる。
したがって修正後のAの過失割合は4割以上である。
というのが、相手の第1準備書面でした。
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