第21話覚悟




「【ライトニング・ボディ】」


アスマディアが自分を含めアグリード、ゴレマスにも雷属性の身体強化を施す。


「クソじじぃの反応速度は異常だ。最低でも【ライトニング・ボディ】の二重掛けは必須」


もう一度全員に雷属性の身体強化をする。


「言葉は不要だ。全力の援護!」


身体強化の二重掛けによりその移動速度はデルガの素の状態をも上回った。


「【キャッスルシールド】」


「【ライトニング・パワー】」


腕にだけ速度と力を集中して強化する魔法を掛けてヴォルフレーの防御魔法である【キャッスルシールド】を殴りつける。


ピシッ


たった一度のパンチでヴォルフレーの最強の防御魔法にヒビが入った。


「【フレイム・レーザー】」


「っ?!」


咄嗟に顔を左に逸らすと火属性のレーザーが右の頬を掠める。

アスマディアがその場から距離を取るとゴレマスの武器が微かに出来たヒビに突き刺さる。

アスマディアと入れ替わるように来たゴレマスは武器を掴む。


「【アビス】!!!」


「ぬぉおぉ?!なんじゃこれは!!」


空気が抜ける音がする。

ヴォルフレーを守っていた【キャッスルシールド】が溶けるように消えてゆく。


「魔法の強制解除………」


ヴォルフレーの口がわなわなと震える。


「それだけじゃない、分析して自分も習得する事が出来る。劣化するかもしれないけどな?あとは……暫くその魔法は使えない」


「魔法阻害をする魔法……!!」


「さて俺の奥の手だ。アグリード、アスマディア?本気で行くぞ!!」


1対3の戦闘が苛烈になってゆく。





アスマディアはひたすら前に出て魔法構築の阻害、アグリードは発動した魔法の防御、ゴレマスはただただその武器を全力でヴォルフレーを斬り殺そうと振り下ろしていた。


「ぬぅ!この…!!」


「死ねぇこのクソじじぃぃぃぃ!!!!」


アスマディアが運良くその懐に入る。


(息の根を止めるのにそこまで派手な魔法は必要ない!これでお終いーーー)


短剣が首に迫る。


50㎝


40㎝


30㎝


20㎝


1㎝


「おぉぉぉぉ!!」


魔力を体から放出する。

僅かに短剣の軌道がズレる。


チッ


短剣は首に届く事なくその頬に小さく傷を付けただけに終わる。


反撃を警戒してその場から離れる。


3人は合流するとヴォルフレーの行動を一つも見逃さないとばかりに強く睨む。


「ふふ、この小僧がーー」


3人に聞こえないくらいの小さな声で呟く。


「このワシの体に傷……!」


魔力が爆発し地面をえぐった事で煙が上がる。

咄嗟に防御魔法を3人は爆風と煙凌ぐ


爆風が収まり煙も霧散する


「小僧如きが……あの方に捧げる筈の体に傷を付けおってぇえぇぇぇぇえ!!!!!」


今まで小さく背中の曲がっていた老人ではなく見た目の年齢が30にまで若返ったヴォルフレーが現れた。


「魔法に頼らず!この手で!貴様らをくびり殺してくれるわ!」


その姿が霞む

次に認識出来たのはアグリードの首を掴んだ時だった。

流れるようにアグリードを地面に叩き抑えるとほんの少し浮き上がった脚を掴みゴレマスに向けて投げつける。


「「っぐあ!」」


「【ライトニング】」


「【パラライズ】」


アグリードを投げ即座に動きにくい体勢になったヴォルフレーに斬りかかるが麻痺の魔法を掛けられてしまいその場に倒れてしまう。


「さっきは良くも!ワシを!コケにしてくれたなぁぁぁ!!!!」


「ぐっ!っ!がぁ!ごぶっ!」


動けないアスマディアを何度も踏みつけ痛め付ける。


「アスマぁ!!」


ゴレマスとアグリードがそれぞれの武器を持ちその首を落とそうと振るう。


「【インパクト】」


腕に魔力を纏い2人を軽く上回る速度で攻撃を避けて隙が出来た瞬間に無防備な背中を叩く。


ドウン!!!


纏っていた魔力が弾けて2人の体に戦いが始まって1番の衝撃が走る。


「「がぁ?!」」


(体が動かない……これはパラライズも含まれてたか!!)


「あ…が…ご、の!」


「アグ、り………どっ」


「そこそこの魔力を込めてもまだ生きてるのか?しぶといな貴様らは!フハハハハハハ!」


嘲笑が神殿中に響く


「悪魔貴族と言えど!まだまだ実践の知らない子供ではないか!!」


何度もパラライズを重ね掛けしていく。


「ふん……アスマディアと言ったか?貴様は…役に立たなかったなぁ!!」


ゴズッ!


髪を掴み神殿の床に叩きつける


ゴズッ!


何度も


ゴズッ!


何度も


ゴズッ!


何度も床にアスマディアの頭を魔力で強化した腕を使い叩きつける。


「この……死ねよクソじじぃ」


朦朧とする意識で愛用の短剣を振り上げる。


「フハハハハハハハハハハ!!!そのような死に体で何が出来るというのだ!!死に損ないのクズが!まともに命令も遂行出来ぬクズ以下の分際で!!」


魔力で強化された脚で何度も背中を蹴られて力尽きたようにアスマディアの腕が落ちる。


「フハハ!やっと!!死んだか!!」


「っ!アスマ……ディア!!」


少しずつパラライズが解け、動き始めたゴレマスとアグリードが名前を呼ぶ。


「次はお前達……だな?」


アスマディアに背を向ける。

歩き出すと愛用していた短剣に靴が当たる


(お前はここで…………)


短剣が光り輝く


「な?まだ生きてーーー?!?!」


「【エクスプロージョン】」


空間全てを覆わんばかりの光が溢れるとアスマディアと近くにいたヴォルフレーを中心に神殿を揺らすほどの爆炎の渦が上がる。


「アスマディアーーー!!!!」


「ゴレマス!よせ!巻き込まれる!」


爆炎の渦が数分間上がり続けている間に完全にパラライズが解けたゴレマスが助けようと駆け出した所をアグリードが肩を掴み宥める。


「あれの中は全力で守りながら入っても危険な領域だ。まだ待て」


「ふざけるな!!俺は助けにいくぞ!アイツクソ悪童だったといえお前以外にいた唯一の親友なんだぞ!見捨てられるか!」


(ゴレマスも大概……悪魔的ではないか)


「安心しろまだ生きてる」


「?!」


爆炎の渦の勢いが30秒後には衰え、更に1分後には完全に勢いがなくなり鎮火する。





「ぁ……」


「アスマ!!」


「待て!ヴォルフレーもまだ生きてる」


微かな呻き声を上げたアスマディアの横には息絶え絶えな様子のヴォルフレーがふらつきながら立っていた。


「ぐぅぅぅぅ!!!!」


全身の肉は焼け爛れ立っている事はおろか生きているのが奇跡だった。

しかし悪魔族の特性である異常な生命力故か小さな生の糸を掴み手繰り寄せる事が出来ていた。


「まだ……ワシは」


その姿は先程までなっていた30代の青年の姿ではなく会った時の姿である老人の姿だった。


「【グランド…マジック!!!】」


自身の魔力を無理矢理集めて魔法陣を完成させた。


「これが最後……だ」




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