第59話屈する



語尾にネが付く中華娘に真達が捕まり数分後に中華娘と一緒に居たであろう仲間も追いついた。


「カッテに行くな言ったよネ!!!モンスターに襲われたドウスルのネ!!!!」


ネが付く中華娘が1人追加された。

追いついた中華娘は真の首を掴んでいる娘を引っ剥がすと頭を下げた。


「コの馬鹿娘が失礼したネ。謝罪させてもらウ」


引っ剥がした娘の頭を無造作に掴むと無理矢理下げる。

抵抗するが一度地面に強く叩きつけるとくたっとなり動かなくなる。


「コレでケジメでいいネ?」


((うっわぁ……))


この一瞬で2人の力関係が分かるやり取りに真と獅堂は思わず心の中で引いてしまう。

頭を掴んでいる中華娘は手を離すと顔をペチペチ叩き始める。


「起きローー起きるネーー」


「うぅ………ハゥア?!」


「やっト起きたネ。早く立つネ」


顔をついた草や土を払いながら立ち上がる。


「いきなリ首を掴んだリしてすまないネ。でも私達もセッパ詰まってたんだヨ」


ケロリとした表情で立ち上がり弁解をする。

その様子にため息をつくもう1人の中華娘は懐を漁ると大きめの魔石を差し出して来る。


「取り敢えずこれは謝罪の品ネ。換金すれば日本円で50万は下ラないはずネ。それとお願いがアルけど聞いて欲しいのネ!」


「実は私達ダンジョンで道に迷ってしまったネ」


「馬鹿なの?ダンジョンゲートまで連れて行けたと?はぁ?」


「ゔっ!耳が痛いネ〜」


「なんとかお願いするネ」


「そう言われても貴女達が出てきたダンジョンゲートがどこか分かりませんし……」


流石に真と獅堂は渋る。

下手に関わると国際問題になる可能性があり、自分の達の帰宅が遅くなるからだ。


「お礼はするネ」


「「お礼?」」


「お礼なら触らせて上げるネ」


((触る……ゴクリ))


「…………ちなみにどこを?」


「耳ネ」


((ニッチ!!!))


耳という単語に反応している2人を尻目に2人がようやく頭から被っていたマントを下げる。


「「なに?!?!」」


「「手伝ってくれるかニャ?」」


「「よっしゃイクゾーー!!!」」


デッデッデデデデ、デデデデデンカーン


2人の中華娘は猫耳だった。

中華娘であり猫耳娘という多重属性……誰が見捨てられようか。

そして2人は思春期男児2人に対する頼み方を心得すぎていた。







「いや〜〜2人だけで経験値せしめるつもりだったのになぁ!!!!もう2人分の経験値の逃げる先が増えちゃったなぁ!!!!!!」


「ちくしょーーーー!!!あんな見え透いたお願いに屈した自分が憎い!!!でも不思議と後悔は無い!!」


「本音ダダ漏れネ」


「片方経験値しか言ってないネ……」


真はその場のノリで引き受けてしまった事を後悔してモンスターをひたすら斬殺し経験値に変えていた。

一方獅堂はその場のノリと下半身に従った自分を憎みつつモンスターを蹴り殺し刺し殺し殴り殺しながら突き進んでいる。


ダンジョンゲートまで連れて行く代わりに真が出した提案は早く帰る為にダンジョンボス討伐に2人も参加する事だった。

真からして見れば2人をダンジョンゲートに連れて行く事を優先すると帰宅が遅くなり攻略も振り出しに戻る為拒否をしたかった。

しかし


(あの猫耳は正直触りたいのも本音………)



1時間も経たずに樹海の最深部と思われる場所に着く。

そこは一際広い空間で半径50mは木が生えていなかった。


「ボス戦の為の空間ーーーーー」


突如周りの巨大な木が暴風に煽られているかの様に揺れ出す。


「なんなのネ!!」


「構えル!!」


猫耳中華娘2人が叫ぶとそれに反応して真と獅堂は瞬時に武器を構える。


「シィァァアァァアァァァア!!!!!!」


何かが叫ぶ声が聞こえると緑色の魔力が広場の中心に集まる。

魔力が形作ると大木の巨人が現れた。

目の色がアホの子からハンターへと変わった猫耳中華娘の片方が大木の巨人へと走り出す。


「おい!!!1人じゃ危ないぞ!!」


走り出した猫耳中華娘に反応して大木の巨人が拳を突き出す。


「遅い……ネ!」


ジャンプして拳を避けると腕の上を走り頭の上に辿り着く。


「シィァァアァァアァァァア!!!」


もう一度大木の巨人が叫ぶと自分の頭にいる存在を殺す為自分の頭を叩いた。


「ふっ!!!」


当たる直前に避け上空へ逃げる。

そのまま殴る体勢になると猫耳中華娘は腕に何か巨大な機械を装着した。


「シネェェェェェェエェエェエェ!!!」


ドン!!!!!!


巨大な機械を身につけた腕で大木の巨人の頭を殴ると少しだけよろけた。

そして


「【ストライク・バンカー】!!!!」


形容し難い、とてつもない爆音が鳴ると機械の先端から爆炎が走り大木の巨人の頭を消し飛ばした。

即座にに機械をアイテムボックスに仕舞いその場から離脱する。 


「ハァァァ………」


((やだこの子怖い))


「まダ終わってないネ」


大木の巨人が真っ直ぐ立つ。

消し飛んだ頭部に魔力が集まると元の形を形成する。

そして2秒ほどで元に戻ると再び真達の前に立ちはだかった。


「うっそだろぉ?」


「頭潰せた終わるって道理はどこだ行った?!」


「ややや、ヤバイネ!!!!!どしようネ!」


真と獅堂は狼狽え片方の猫耳中華娘が頼れる仲間に縋り縋られている猫耳中華娘は厳しい目で大木の巨人を見ていた。

大木の巨人は最適化を行なっているかの様に全身が蠢き形を変えて行く。

無駄な太さを絞り、無駄な高さを縮め、それら全てを圧縮する。


最適化が完了するまでにかかった時間は実に2秒と短時間だった。

最適化が済んだ姿は先程まであった10mの高さも3mまで小さく縮んでいた。


「シィァァアァァアァァァアァア!!」


獣の様に荒々しく叫ぶと一瞬にして距離を詰める。

一瞬にした目の前に来たモンスターに虚を突かれた真は上手く防御を出来ずに振りかぶった腕に吹き飛ばされた。


「真!!!」


「大丈夫ネ?!」


「速いネ……!!」


ゆっくりと木のモンスターが元の体勢に戻る。

獅堂は明らかな格上に脚が震えていた。

猫耳中華娘はギリギリ対応出来る範囲であった為震えは無いが最大限に警戒を引き上げた。


「シィァァアーーーーーー」


「俺を忘れてんだよ!!!!」


人型の木のモンスターは殴られた仕返しとして真を思い切り殴り返した。


「し、真」


「怪我はないネ?」


「?どうしたネ?」


真は深呼吸をする。

そして吹き飛ばされた人型の木のモンスターを見据え笑う。


「良い経験値だ」



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