第36話 全力
紅葉の体へ向けて短剣を放つがガントレットで迎撃される。
短剣だけでなく拳術、蹴術を織り交ぜながら果敢に攻めていくが全ていなされる。
速さだけならほぼほぼ変わらないが足運びや技術面で大きく劣っている。
このままでは真が欲している箔
つまりSランクの称号は到底手に入らない。
(くそっーー)
「ほら隙」
「ぐっ!!」
2つの短剣がガントレットによって弾かれて体勢が崩れた所を的確に攻撃してくる。
大振りの一撃を放つのではなくジャブを放つ事でワザと真に今のでお前は『死んだ』という事を気付かせる為にある。
モンスターと戦う時ここまで局所的な攻撃のされ方をするか?と疑問に思うかもしれないが取り返しがつかなくなる事を防ぐには『死ぬかも知れない』と感じる事が必要なのだ。
「ふっ!!」
魔力を足の裏に集め爆発させる事で限界以上の加速をする。
「お?」
楽しそうに真の小技をしっかりと目で追う。
紅葉まであと2歩という所で体勢を無理矢理変えて足の裏に集めた魔力をなんとか爆発させる事でスピードをさほど落とす事もなく直角に曲がる。
流石のSランクである紅葉と言えばどこれには目を見開いていた。
徐々に爆発も大きくなりスピードも速くなる。
壁、床、天井
全てを駆使して紅葉に一撃を入れようと動く。
(う〜ん、今のままじゃ真君はせいぜいSランクの足元に手をかけた程度。段階踏んだハンターならともかく駆け上がって来たハンターならもっと力を示さないと……)
「認められないよ!!!」
ゴッッ!!!!
紅葉の威力は殺した最速の拳が真の顎にクリーンヒットする。
一撃を入れる為に限界を超えたスピードで紅葉に斬りかかっていた真には顎に入らずともかなりのダメージだった。
付いてしまった勢いを止める事も出来ずに真は試験会場の床を転がってしまう。
「はっ?…なっ……」
失神などにはならなかったが脚に全く力が入っていなかった。
壁までなんとか寄ると体を支えながら立ち上がる。
(今の俺じゃ真正面からは敵わない。俊敏の値に差はさほどなくても技術が圧倒的すぎる!俺の力……何か一つだけでいい紅葉さんに俺をSランクだと納得させる何かを!!)
働かない頭をフル回転させていると1つだけこの対紅葉戦の攻略法が見つかる。
(これなら………賭けるしかない)
「紅葉さん」
「何かな真君?」
「この試験って紅葉さんにSランクに相応しいと納得させればい良いんですよね?」
真の言葉にキョトンとするが理解すると深く頷く。
「そう、納得させて欲しいんだ。普通なら君は合格するだろうね?Sランクの末席に座るくらいは出来ただろうね。だけど真君は違うだろ?」
真剣な目で、楽しそうな目で真を見据える。
「
激励をする様に叱る。
そして真はその激励をもって確信して笑顔になる。
「ならば俺の全力を
「そうだ!それは!!君の力だ!!!」
思い切り叫ぶ為に息を吸う。
今この瞬間だけは真の本当の意味での全力を出す為の行為の邪魔をするなどという無粋な真似はしなかった。
「
ずっと自分の名前を呼ばれる事を待っていたかの様に突然真と紅葉の前に2つの赤黒いゲートが現れる。
バチバチバチィィ!!!
表情、感情があるわけでは無いゲートが心なしか嬉しいそうに弾けている。
中から現れたのは真にとって響の次に大切な家族である悪魔だ。
ゲートから出ると紅葉の前に立ちはだかり真を守るように武器を構える。
装備も普段着みたいないつものラフな格好ではなく兜を除いた全身鎧を着ている。
「紅葉少しやりすぎだとは感じるが主の技量をこの戦闘の中で鍛えてくれた事感謝する」
ガチャリと音を立てて頭を下げるデルガ
「しかし主に呼ばれた今私は貴女の敵とここに立つ」
「主ご命令を」
「分かった。デルガ悪いけど俺の体の治療、回復魔法を頼む」
真の言葉に即座に行動し回復魔法を掛ける。
先程まで感じていたふらつきも無くなり真は真っ直ぐ立つ。
「アグリード」
「「はっ」」
「アイテムボックスの中にある武器。全部この空間の床に刺さるように出せ」
パチィ
小さく弾ける音がすると一瞬にして試験会場全体に色々な種類の武器が刺さる。
「これで紅葉さんの移動制限にもなる」
《紫紺の短剣》と《毒鳥の羽剣》をアイテムボックスに仕舞い近くにあった長剣を握る。
「覚悟して下さい。今から俺は紅葉さんに息もつかせないし休ませるつもりはありません」
「私がこの武器を使って応戦する可能性は?」
「その刺々しい指のガントレットで武器を握れますか?」
「………」
真に図星を疲れ黙る紅葉
長剣を構えると再度ひりつくような空気が流れ始める。
カチャ
ガントレットの動く音を合図に真は全力で長剣を紅葉に向けて投擲した。
ガギンッッ!!
「なっ?!」
「休ませないって言いましたよね?」
「この!」
紅葉が移動しようとするとそこへ向けて真が武器を投げる事で移動を制限する。
低ランクの武器とはいえSランク相当の筋力を持って投擲させる真の武器は紅葉の肌に傷を付けるだけと威力はあった。
武器の投擲を攻撃のメインにしてから形勢は少しずつ変わっていく。
今まで歩いて10歩の距離だったものが今では15、また次の瞬間には20と徐々に距離が開いていく。
当然紅葉のメイン武装である刃付きのガントレットは届かない。
自身に迫る長剣や槍、斧や短剣をガントレットでいなしたり壊し避ける。
時に隙が出来近づこうとすると武器を出し続けているデルガとアグリードが武器を投擲をする事で牽制している。
あくまで真の補助に回るつもりらしい
もう一度踏み込もうとするとデルガとアグリードの武器の投擲が視界を覆うほどになる。
(2人が出張れば私なんてすぐに倒せるくせに!!なるべく自分の力で私を納得させたいなんて………真君も)
「男なんだね!!」
「当たり前です!!!」
「?!?!」
いつの間にか真が紅葉の目の前にいる。
避け、壊した武器の先に何故か
何故か荒鐘真がいる
その事に気付いた紅葉の表情は驚愕に彩られる
「いつのまーーー」
「終わりだぁぁぁぁぁ!!!!」
即席の戦術戦略だが本気で挑み成功させた真は相棒となっている短剣を振り下ろした。
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