第37話 合否



─────キンッ


真の振り下ろした《毒鳥の羽剣》が紅葉のガントレットに付いている刃によって根本から斬り落とされる。


「うっそ…!」


「ホント!」


弓矢の様に引き絞った右腕が目にも止まらぬ速度で放たれた。

顔面まであと20㎝


18㎝



15㎝



10㎝


(やっば!!!)


真の顔にめり込んだ所で死ぬ事はないだろうが少なくとも数時間は気絶してしまうだろう。

ガントレットが真の顔を迫る事を察してデルガとアグリードは即座に助かる為に行動していた。



8㎝



5㎝





1㎝

死を幻視した真はあらん限り目を固く閉じた。

しかしその紅葉の拳は届く事はない


「紅葉!!!!」


「主!!!」


アグリードは愛用している武器を手に取り自身の主である真を離れた所に瞬時に移動させると流れる様に武器を構える。


デルガは紅葉の右腕を思い切り上に蹴り飛ばした後崩れた体勢を利用して大外刈りを決めて拘束する。

左脚で紅葉の右腕を抑え右手で首を掴む。

いつでも紅葉を殺す準備が整う。





「紅葉…最後は少々やりすぎなのではないですか?」


怒った表情で紅葉を問い詰める。

気まずそうな顔でデルガに答える。


「流石に死にはしなかったよ。でも数時間は眠ったままになったかもね」


「それで…!」


「それだよ」


デルガが何かを言おうとすると、紅葉が遮る様に何かを指摘する。

話を遮られた事で固まるデルガ


「真君はハンターになってか短時間でここまで登り詰めた」


「………」


「死にそうになったのはと私が一緒に居たダンジョン決壊の時だけだろ?」


事実なのでデルガは何も言えない。

何も言わないデルガを見て紅葉はそのまま話を続ける。


「そうやっていつまでも過保護に守っていくつもりなら、それは真君の為にならないよ!!死にかけた時があったとしても、それがお守りがいる状況なら本当に死にかけたとは言えないよ!」


紅葉も真の為を思い真剣に叱る。


「もし君達がいない状況でダンジョン決壊が起きたらどうするつもりなんだ!それが前のやつよりヤバいのなら真が本当に死ぬぞ!!」


その言葉がデルガとアグリードの胸に嫌に響く


「本当に死にかけた時、地力で足掻く力を付けてあげるのも君達の役目だろ?!」


「それは!……そう、ですね」


「デルガちょっと耳貸して」


「?」


観戦スペースのハンターと古豪会長、試験会場内にいる真とアグリードが2人を見つめる。

真とアグリードはお互いを見つめ?を浮かべるとまた紅葉達を見つめる。


「ごにょごにょごにょ」


「ふんふんふん……ふぇ?!」


「ごにょ!ごにょにょにょ…ごょ」


「え、えぇ……」





観戦スペース内


「何を話してるんだ?」


「あれがガールズトーク……」


「物々しいけどな状況」


「ふーん。混ざってみてーな。どんな話してるんだ」


白蓮騎士ギルドの面々がデルガと紅葉の内緒話を推察したりツッコミを入れたり混ざりたい欲を隠そうともしなかったりしている。


古豪会長はというとそんな若者を見て微妙な顔をしている。


(……若いとはこうまで元気なものかな)


自分の歳とハンター達の反応を見てほんの少し黄昏る古豪会長






真、アグリード


「何を話してるんだろ。アグリード想像つく?」


「多少は…ですが主に教えてしまうと後々私の身に姉上の暴力が降りかかる恐れがあるので黙秘させて頂きます」


「…….そんなに?」


「一度死にかけました」


「え?」





「…………ふぅ、デルガとも少し話たし、Sランクハンターへのランクアップ試験の合否を伝えるよ」


立ち上がり自身の装備に付着した埃を払う

デルガは紅葉の拘束を解いた後、鎧を解きラフな格好になると真の隣に立つ

アグリードも同様だった。


「身体能力的にSランクには充分、しかし技術は未熟。それでも自身の家族兼しもべであるデルガとアグリードを利用し戦う。その2人の戦闘能力自体は私自身を遥かに超える………」


ブツブツとこの試験の流れを呟き分析をする


そんな紅葉の様子を真は少しだけ心配そうに見つめていた。


「主は心配する事ないですよ」


「え?」


「だってあれ程追い詰めましたから」


2人の言葉に心の中に浮かんだ焦りが急速に緩和する





5分ほど時間が経つ

合否を決めたのかいい笑顔で顔を上げる。


「真君!!」


「は、はい!」


「合格!」


「はい!………え?」


「「え?」」


真の間抜けな声が紅葉の耳に届く。


「どうしたの、え?って何……え?って。合格だよ」


「あいや、もうちょっとこう………雰囲気というか。なんかあるのかと思いまして」


嬉しいが何か微妙にモヤモヤとした物を感じなんとか表現しようとするが見つからない。

そして諦めて紅葉の顔を見ると


「( ˙-˙ )シラーーー」


「なんて顔してんだ??!!」


紅葉は言葉に出来ない顔で真の言葉をスルーしていた。

普段どちらかというとボケに走りがちな真でさえ思わず本気のツッコミをしてしまった。


「フンイキナンテシラナイ」


「カタコト?!後ろめたい事がおありで?!」


「テイサイナンテ…ナカッタ‼︎」


「ええぇぇぇ?!」


「「ぶふっ!」」


紅葉のボケと普段見る事のない真のツッコミにそれを間近で見ていたデルガとアグリードは吹き出してしまう。


観戦スペースで見ていたギルドのハンター達も試験会場の様子を見て笑いに包まれていた。






後日真が学校にいる時にハンター協会の人が直接Sランクハンターとしてのライセンスを直接渡しに来た事で学校中どころか日本中を賑わしマスコミに追われる事になるとはまだ知らない。







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