第20話ヴォルフレー




「もう少し遊ぼうかね?」


「っ?!」


老人が指を鳴らすとアスマディアの一撃を防いでいたただの魔力の塊が【キャッスルシールド】に変化する。

更に指を鳴らすと押し込まれた分を押し返すように動き壁に叩きつける。


「っぐ」


壁に叩きつけられたアスマディアがすぐ様その場から離れてゴレマスやアグリード達の近くに退避する。


「アスマ、あの老人…いやヴ・ォ・ル・フ・レ・ー・は魔法に特化した悪魔だ。アレを真正面から捻じ伏せる事が出来るのは恐らくアグリードの姉のデルガくらいだろうな」


「私は姉上程の実力が無いのでお2人に協力を頼みたいですね」


「……悪魔が協力するなんて聞いた事ないな」


「ならば、これが初めてですね!」


3人がそれぞれ武器を構える。


「相談が終わったようじゃな」


ヴォルフレーという名の老人の口が歪む。


「ワシの野望の前に……貴様ら餓鬼はいらん」


数百はあろうかという魔法陣が3人を囲むように出現する。

パチンという乾いた音がなると常人なら耳を押さえずにはいられないほどの轟音が鳴り響く。


その全ての魔法をそれぞれ身体能力のみで避けて当たりそうな魔法を武器で捌く。

対処出来なかった分は魔力防壁で防ぐという完璧な対処を見せつける。


老人をほんの少しでも休ませまいとアグリードが武器に魔力を纏わせてヴォルフレーの体を守る【キャッスルシールド】に斬りつける。

斬りつけた場所に尋常ではない圧力が掛かり続けているのか地面が少しずつ陥没して行く。


少しも休まず武器を振い前後左右、上にも圧力を加えて逃げ場を無くしていく。

【キャッスルシールド】に守られている老人の表情は涼やかなものだった。

その場から離脱すると入れ替わるわようにアスマディアが現れる。


「【ライトニング…ランス】!!」


体を雷の魔力で強化するとただでさえ異常な身体能力が更に飛躍する。

そんな状態で短剣に【ライトニングランス】の魔力を込めた一撃を全力で投擲する。


その投擲は音速を悠々と変えた。


投げた瞬間の音と短剣がヴォルフレーの【キャッスルシールド】に当たる音はほぼ同時になった。


「ぬ、ぉおおぉぉぉおお!!!」


神殿の壁際に押されても破れない

アスマディアは短剣を投げきった体勢から戻ると駆け出す。

悪魔族特有の素の身体能力の異常な高さ、最高峰レベルの雷属性の身体能力強化。

それらが全て合わさった渾身の蹴りが放たれる。


ピシッ


【キャッスルシールド】に小さなヒビが入る音が3人の耳に届く。


追撃


拳に炎の魔力を込めて殴る。


ピシピシッ


爆炎が上がり更にヒビ割れる音が耳に届く。


「これ、で最後ぉお!!」


使い捨ての短剣に今日1番の魔力を込めて斬りつける。


「小僧ぉ!!!!」


ピシッ……パリィィイン


都合3回のアスマディアの攻撃により遂に【キャッスルシールド】がガラスの割れるような音を立てて破れる。


「ゴレマス!!!」


「分かった!!」


呼び声に短く返事をしてゴレマスが無防備になったヴォルフレーの体に長剣を振り下ろす。


「ぬぉおぉぉぉおぉおま!」


神殿の壁が壊れて更に奥の神殿へと吹き飛んで行く。


「「「はぁ…はぁ…はぁ……」」」


「まだだ、まだ行くぞ」


「分かっています」


壊れた壁の向こうのヴォルフレーを追いかけると、今までいた神殿とはまた違う雰囲気の神殿のような様に変わった。


「これは………」


何かがおかしい事にすぐ様気付く。


「ゴレマス、これはまさか」


「そのまさかだろうな。奴らの目的は……」


「人間界の蹂躙」


アグリード、ゴレマスの言葉の続きをアスマディアが言う。


「魔界からこの人間界に転移能力のない悪魔を送るため、壁一面に書き込まれた魔法陣……」


「知ってるのですか?」


アグリードがアスマディアに問う。


「あぁ何せ俺がこの人間界に来た理由がそれだったからな」


その突然の告白に2人に緊張が走る。


「お、おま」


口が上手く回っていないゴレマスを一目見て続ける。


「だが俺はもうアイツらに協力する気はない。デルガ様にボコボコにされほぼ強制的に契約魔法と交わされたしな」


ほんの少しだけアスマディアの顔に哀愁が浮かぶ。


「それに……」






ガラガラ


この暗い空間の神殿の奥で瓦礫の崩れる音がする。


足跡がすると影から吹き飛ばしたはずのヴォルフレーが体に付いた埃を払いながら現れた。


「中々に……良い一撃を貰った」


首をコキコキ鳴らしながら魔法の発動準備を整える。


「デルガ様は俺が倒すと決めたんだ」


使い捨ての短剣を仕舞い自身が本気を出す時にしか使わない短剣を取り出す。


「済まないがこれは俺が巻いた種でもある。援護してくれ」


言い終わるか終わらないかの刹那にヴォルフレーに切迫し短剣を振り下ろす。


「遅いのぉ」


ガギンッッ!!


地面からドリルのように勢いよく飛び出した【ロックランス】がアスマディアの短剣を防ぎきる。


「っっ?!」


「驚いてるようじゃな?どんなしょぼくれた魔法も極めれば……奥義足りえるのじゃよ?」


パチン


ヴォルフレーが指を鳴らすと地面か

無数の【ロックランス】がアスマディアを襲う。


「効く、かぁぁあぁぁあ!!」


致命者になる一撃だけを避け短剣で全ての【ロックランス】を切り落としていく。


全てに対処するとそのまま短剣を振るっていく。


「ほ、ほ、ほ、ほ」


ヴォルフレーは、左右から襲うアスマディアの短剣を【ロックランス】で防ぎきると【キャッスルシールド】を発動して距離を置く。


「連携を合わせろ」


「ここからが本番だな」


短剣をもう1本取り出しアスマディアは構えてヴォルフレーを睨んだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る