第42話日常の不穏



7月某日


真は学生最後の夏休みを控えてウキウキとしていた。

クラスメイト達は真が日本人最高峰であるSランクハンターになった時はマスコミレベルで騒ぎ立てたが真の悪友である獅堂が諫めるとマスコミより遥かに早く騒ぎは収まった。


デルガとアグリードが学校にいる事にも慣れてきたクラスメイトは2人とも打ち解け気軽に会話をする様になった。

まだまだデルガとアグリードに告白をしてくる人達は絶えないが大凡は平和と言えた。

しかし


「…………はぁ、またかよ」


学校の玄関に自分の靴を入れるスペースに真宛てのラブレターが山ほど置いてあった。

名前をよく確認するとあまり良い噂の聞かない人達ばかりだという事に気付く。


獅堂曰く

「真がSランクハンターになったって事はそれ相応の収入が期待されるだろ?だから金目当てだろうな」

だった。


そしてそのラブレターの中に紅葉詩乃の名前がある

真が問い詰めると

「真君養ってくれよ!!!ハンターなんて25くらいで辞めたいんだよーー!!もう働きたくないーー!!」

少し切実な理由にほんの少しブレる真だが黄金の意思でなんとか踏みとどまり断る。


「よう真!!おはよう!」


「噂をすればなんとやらだよ。おはよう獅堂」


覆い被さりながら真と朝の挨拶を交わす。

そのままの流れで靴箱を見ると苦笑いが溢れる。


「うわぁ……大変だなぁ相変わらず。どうすんの?捨てる?」


「当たり前だろ?金目当ての奴らの誘いなんてクソ喰らえだ。せめて紅葉さんレベルで裏表のない人なら一向の余地はある」


「それでも?デルガと妹さんの視線が怖いので一考の余地無しです」


「ブハハハハハ!!!どんまいどんまい!!」


もの凄い笑いが真の耳に届く。

恥ずかしそうに震えながらほんの少しだけ力を込めて獅堂の頭を叩く。

勢いで靴箱に顔をぶつける

そんな獅堂を無視して真は教室に向かうが途中横から何やら抗議の声が聞こえた様だが反応する事なく階段を上った。


「荒鐘真っていったっけ?面貸しな」


3階に差し掛かる前の踊り場で影が指すと同時に強気が声が聞こえる。

獅堂と真は馬鹿騒ぎをやめ階段を見つめる。


「………同学年のヤンキー、改め問題児ギャル3人衆じゃないですか。朝早くにどうされましたか?」


皮肉を思いっきり込めて敬語で話す

するとリーダー格の横にいる女が前に出てきて真に威圧する。


「オメー姐さんが付き合ってやるって言ってんだろうが大人しく付き合ってるフリして金出せやぁ!!」


ビビるとでも思ってるのか最後の方はほぼ恫喝気味になりしまいには足を蹴ってくる。

基本的に温厚な真と蹴られたわけではないが悪友である獅堂の顔から先程まであった笑顔が消える。


「っ!Sランクハンターになったらしいが調子のんな!!!どうせマグレか金握らせたんだろうがよ!!」


(握らせるほどの金持って無かったわ)


取り巻きAの言葉に思わず心の中でツッコミを入れる真は溜め息を吐く。

するとリーダー格の女がズカズカと勢いよく近づいてくる。

胸ぐらを思い切り掴み上げる


「その態度…舐めてんじゃねぇぞ?」


脅しとも取れる言葉を放つ。


「お前こそハンターという職業を舐めない方がいい。命掛けてダンジョンに潜ってる。勿論利益があるからだがそれでも根本はダンジョン決壊を起こって人を死なない様にするためだ。プライドを持ってやってる」


「はっ!」


リーダー格の女が鼻で笑う。


「たかがままごと如きでーーー」


ハンター全てを侮辱する言葉が出た瞬間真と獅堂は即座に動いていた。

獅堂はリーダー格の女の脚を払い体勢を崩す、真は体勢が崩れた所で急所である首を掴み壁に叩きつける。


「かはっ!」


「「ヒッ!」」


肺から空気が押し出され悶えるリーダー格の女。

取り巻き2人は今の一連の行動に息をのんだ。


「命賭けてダンジョンに潜ってる人達を侮辱する言葉を次俺の目の前で使ってみろ」


「容赦なくてめぇらを」


「「潰す」」


獅堂と真の一般人にはキツイ殺意をぶつけられ震え始める。

震え始めた3人を見て真は手を離すとリーダーの女が崩れ落ちる。


「ケホケホっ!」


「姐さん!」


「大丈夫ですか?!」


すぐさまリーダーの女に駆け寄る取り巻き。

ただの腰巾着ではなくしっかりと助けに来る程度の信頼関係はあるようだった。


「……覚えてろ」


真を強く睨み捨てゼリフを吐くと階段を降りてどこかへ消えてしまった。




「朝から気分悪いなぁ……。それにしても獅堂お前も反応するとは思わなんだわ」


悪くなった気分を変える為、わざと陽気に獅堂に話しかける。

すると想像していなかった返答が返ってくる。


「初めてお前とダンジョンに潜った時実は感動してたんだよ」


「は?感動?」


「そうだ。あんな普通に死が隣にある状況でしっかりと動けるお前を見て、今までダンジョンに潜った先人達は俺より凄いんだって感動した」


「獅堂……」


「だから1つ目標が出来た」


真に背を向けて階段を上る。


「俺もお前みたいにハンターとしてカッコ良く活躍する。これが俺の目標だ」


獅堂は初めて背中で真に語った。

今の言葉を聞いて笑顔を浮かべながら真が獅堂の背中に手を置く。


「………で?要求はなんだ?」


「ギクッ」


「お前が決まって俺を感動させようって時は大体何か要求したいけど面と向かって言えないから誤魔化する時だ!!吐け!今度は何を要求する気だ!」


悪友であるため加減をせず胸ぐらを掴み全力で揺さぶる。


「あばばばばばばっばばばば!待って!財布!財布忘れたのだ!昼メシ奢ってくだしゃい(ガリッ」


「あ」


真に思い切り揺さぶられながら話した事で舌を噛んだ獅堂は良い顔で魂が抜けたみたいにガクッと崩れ落ちる。


「獅堂ぉぉぉぉぉぉぉぉ?!?!」




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