第51話説得



全ての契約が終わってから1ヶ月以上がたった。

学校に通う必要のない現役のSランクハンター達は真や獅堂と比べると遥かにモンスターを殺しまくり経験値を獲得している。


ハンターのライセンスを持っているが一応まだ学生の身である2人には焦りが生まれていた。


「俺はもう学校通う必要はないけど親から通えって言われたからなぁ……」


「俺も親から高校くらいは卒業してくれと怒鳴られた」


「間に合わないなぁ」


同時に溜息が溢れる。

昼飯を人があまりいない校舎裏で食べている。

そこに一応この学校に転校生として来た紅葉が2人に声を掛ける。


「あれから1ヶ月たったけどレベルはどれだけ上がった?」


「紅葉さん……俺は5上がりました」


「真君は?」


「1しか上がってません。俺は獅堂の倍近くのレベルなので要求される経験値は倍どころじゃきかないんですよ」


ほんの少しだけ暗い表情で紅葉にレベルアップの進捗を報告する。


「学校を辞めてハンターに専念したいですけど家に響を1人にさせたくないし、お父さんやお母さんから高校には通えって言われているのでなるべく通いたいんです」


紅葉は真の言葉を聞いて数瞬考えると何かを思いついたのか提案を出した。


「真君ダンジョン決壊の立役者として国からかなり我儘言っても許されるくらいの自由はあるんだよね?」


「はい?」


目が点になる。

紅葉から出た言葉は真自身とっくに忘れていた物だったからだ。

我儘や権力なんて目に見えない物は真達高校生からしたら関わらないと簡単に忘れてしまう物だった。


「真君と獅堂君2人にだけ好きな日にダンジョンに潜れるようにして貰えればいいんじゃない?国にかなり我儘言っても許されるならそんくらいいけるでしょ?」


もはや暴挙とも言うべき提案

しかし今の真にはそれが可能に出来る


(お父さんとお母さんに高校には通えって言われたけど通わすにダンジョンに潜ってていいのか??やるとしても響が1人になる時間は今までより遥かに多くなる!)


「くそっ!」


「真……」


真の胸中を良く知っている獅堂は泣きそうで辛そうな様子を見て顔を顰める。


(地雷踏んだ?)


地雷を踏んだと察した紅葉気まずそうに笑うと口を塞いだ。

せっかく楽しくなる予定だった昼飯は紅葉の一言で暗い雰囲気になる。


「………お兄ちゃん?」


突然背後から声が聞こえて振り返るとそこには今しがた考えていた真の妹である響が立っていた。

座っていた真を見下ろしていると突然背中に1度蹴りを入れた


「いったぁ?!何するよ響!!」


「響ちゃん蹴り強くなかった?」


真が響に反論している横で、獅堂は響の真に対する蹴りの強さにかなり引いた様子だった。


「今の話何?」


「あ、いや。響には関係ないよ?な?獅堂!」


同意を得る為に獅堂を強く睨む

真の意図を汲んだ獅堂は響に答える。


「そうだよ?ハンターの話だから響ちゃんにはすこ〜し関係ないかなぁ?」


「……そうやってまた1人で抱えて高一の時みたいに潰れるつもり?獅堂さんも悪友ならお兄ちゃんを助けてあげてよ」


「響ちゃん……親友名乗ってるはずなんだけど」


「煩い。今黙ってて」


「はぃ」


スススと2人から離れるとご飯を食べ始める。


「詳しい事情は分からないけど、ダンジョンに潜ってレベル上げないといけないんだよね?」


「……」


「デルガさんやアグリードさんもそうだけど悪魔族に関係すること?」


「?!」


核心をつく質問をされ明らかに動揺する


「私だって何も知らないままじゃないからね?私が家で1人になる時間が増えるのが心配?お母さん達との約束があるから学校に通い続けるの?」


「……そうだよ」


「私が家に1人になる問題はアスマさんで解決出来るから問題ないよ。お母さん達の約束だけどあれは出来ればなんだからね!何かやらなきゃいけない事があるのなら利用できる物は全部利用しなよ!」


18年間生きて来て初めて妹の響から怒られた事に困惑する。


「そもそもデルガさんとアグリードさんはお兄ちゃんより全然強いんでしょ?ならダンジョンに潜る時1人連れて行けばいいじゃん。ゲート?ですぐに戻って来れるんだし」


反論の余地は真に残されていなかった。


「アスマの事は完全に忘れていたな。アイツがいればどんなSランクハンターだろうが敵わないからチンピラの心配はなくなるか。しかもよくよく考えれば数ヶ月いなくなるわけじゃないな……」


自分が深く考えていたようでガバガバな考えだった事に気付き自分を恥じる。


「なら、これから半年以上ほぼ毎日学校に通わなくなるし、家に帰るのも遅くなるけど大丈夫か?」


「うん」


「寂しくなったら楓ちゃんとか友達を家に呼んでお泊りとかしてもいいからな?」


「ほんと?」


「男は呼ぶなよ?家に入った瞬間問答無用で消すようにアスマに頼んでおくからな?」


「それはやめな?!色々と不味いでしょ!!」


「大丈夫足はつかん」


「ちゃうねん」


真の危ない発言に響と少し離れていた獅堂も思わずツッコミを入れてしまう。


「なんでもないよ。でも男は連れて来るな心配になるから」


「分かったよ……全く」


「獅堂、飯食うぞ」


「おう」


5分もかけずに昼飯を終わらすと側で一連の様子を見ていた紅葉と響に戻る事を告げて獅堂と一緒に校舎裏から教室に戻っていった。


「紅葉さん……気にしなくていいよ?」


「今回の失言はまずいかもって思ったよ」








ダンジョン内


「獅堂……準備は出来てるだろうな?」


「真こそ、何かスキルゲットしたのか?」


「まぁな!」


響に怒られてから1週間後。真と獅堂はダンジョン内にいた。

お互いに合図を送ると武器を構える。

獅堂は自分の契約者となったヨハネを呼び出す。


「ヨハネさんお願いします。今日はとびきりの強化をお願いします」


「任せて!!」


ヨハネの膨大な魔力が獅堂を包み込む


「ぐっ……キツいけど同時に回復魔法掛けてくれてるから耐えられるな」


「単純な強化だけだと今のままじゃ死んじゃうから」


獅堂はアイテムボックスから《魔鉄の短剣》を取り出すと投擲する

何十mと離れているモンスターに当たると経験値に変わる。


そして指を曲げる動作をするだけで武器が意思を持っているかのように勝手に戻ってくる。


「やっぱすげーなそれ」


「便利だろ?」


「確かにな」


話している途中に襲いかかって来たモンスターを気にしていないように蹴り殺す。


「さぁ、今日から存分に経験値狩りだ」





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