第24話 古豪 響




今真達は真が住んでいる区の家から最寄りの病院に入院している。

デルガが回復魔法を掛けてこれといった怪我はないが療養のために一応入院という形をとった。


その病院のそこそこ大きめの部屋に紅葉を含めた4人が集まっている。

全員がとても微妙な顔をしている。

微妙な表情になるのを今置かれている現状を見れば仕方がないと言えば仕方がなかった。


「カメラマン……どうしよっか」


「堂々と…ゲートから出て来ちゃってましたし」


「どちらにしろいつか絶対バレてたんじゃね?」


「そうですけど………はぁ〜〜」


真が頭を抱える。

元々真はSランクという化物の仲間入りをしてかデルガやアグリードを世に出すつもりだったのだ。

そうすればSランクだからという言葉で面倒くさい説明から逃げられるから。

そんな計画も昨日のダンジョン攻略の後で儚く散ってしまっている。


「今から世に出そうにも……戸籍とかの現実的かつ1番面倒くさいやつ〜!!!」


病院のベットの上で頭を抱えたまま芋虫のような奇妙な動きで暴れる。

そんな真を見て紅葉が安心しろと言うかのように笑顔になる。


「そこの所は安心しろ!このSランクである紅葉詩乃に任せなさい!!」


そこまで大きくもない胸を張る。

チラりと病室にある時計が今どの時間かを確認する為に見る。


「ふ〜ん。9時58分…真君実は君が寝ている間にある事が決まった」


「ある事?」


「ハンター協会のトップが今回のダンジョンの決壊について私達の話を聞く為にここに来る予定だ。10時にな?」


「え、じゃあもうーー」


ガラララ


病室のドアが開けられる。

全員がそこに注目する、そこには少し髭を生やした推定40代の男がいた。


「紅葉君遅れたかね?」


「いえいえ時間通りです」


「ならば……」


芥、鹿島、真を順番に品定めするように見つめる。


「ではダンジョンの中で何があったのか聞かせてもらおう。言い忘れてたな、私の名前は古豪響こごうきょう。ハンター協会のトップにいる者だ







ハンター協会のトップである古豪響は4人からの証言を聞き渋面を作る。

いや、渋面しか作れないといった様子だった。


「荒鐘君、そのデルガ?とアグリード?という2人は今ここに呼び出せるのかね?」


重い表情で問い掛ける。

真はトップを担う者としての覚悟を決めている古豪響に圧倒されながらも質問に答える。


「は、はい!ただ…」


「なんだね?」


「窓を閉めてよろしいでしょうか」


「なんだそんな事か。芦・野・閉めろ」


古豪響の護衛を務める芦野が名前を呼ばれると一言も話さず即座に窓を閉めた。


「これで邪魔なマスコミの目は万が一にも届かない」


「分かりました。デルガ、アグリード」


いつもの赤黒いゲートが2つ出現するとさしものハンター協会のトップである古豪響驚きを隠せていなかった。

護衛である芦野は反射的に武器を手に取ってがゲートから出たデルガが目にも止まらない速さで芦野の手を掴んだ。


「貴様…この武器はどういう事だ……!!!!!」


「まさか主を害そうと?」


いつの間にかアグリードは芦野の背後に周りその首を返答次第ではどのタイミングでも落とせるように愛用の武器を添えている。


「こ、これは違うんだ!」


「「何が違う?!」」


「2人とも…やめてくれ。ここは病室だしその人は2人の現れ方に驚いてしまっただけだ。その人もこの人を想っての行動だ」


そう言い古豪響に視線を向かせる。

何度か芦野と古豪に目線を往復させ真の言っている事を吟味し理解すると武器を下ろす。


「この2人が話の?」


「はい。デルガとアグリードです」


2人の登場の仕方にこそ驚いていたがそれ以外は大した反応はしていない。

古豪響自身がSランクハンターであるためもしもの事があってもなんとかなるという自信から来るものだった。


「紅葉君、私に相談があるみたいだがそれはもしかしてこの2人の事かね?」


「流石古豪さん冴えてるね!」


少しテンションが高い紅葉が相手でやりづらそうに反応する古豪。

紅葉に話の続きを促す


「実はこの2人の戸籍を作って欲しいんだ」


「「「はい?!」」」


「む?」


「紅葉戸籍がどうかしたのか?」


「簡単にいうとゲート中に入っていなくても常に堂々と真君の側を歩けるって事だよ」


「それはいいですね!!主!この提案は是非受けましょう」


嬉々とした表情で真に詰め寄るデルガに若干引きつつもその提案は真にとって願ったり叶ったりなのでなんとか反応する。


「それは俺自身としても難しい事を考えなくて済むから嬉しいよ?でも古豪会長が良いって言うか……」


「構わない」


「えっ?!」


「君はあまり自覚出来ていないのかもしれいないがね?今回の君達4人、いや6人の功績はダンジョンが出現してからの人類史から見ても計り知れないものだ。感謝を伝えたくも末代までも国が全力で養っても足りないほどの功績。もっと我儘を言ってくれないと私も国との板挟みで辛いのだよ」


ネクタイを緩めながら少し苦笑が溢れる。

ハンター協会のトップで会長でたる古豪響でも国から催促には少し弱いらしい。


「ならば紅葉さんの提案は是非お願いします。戸籍はうちにするのもちょっとおかしいか?……」


真は腕を組んで数瞬思案すると答えが出たのか顔を上げる。


「一応戸籍上では俺と同じ荒鐘家の人間にして置いてくれませんか?」


「お安い御用だ」


形で感謝を表せた事に安心したのか古豪響の頬緩む。


「あと、俺はまだ学校に通っているのですがそこにも2人を通わせる事は出来ますか?」


「出来る」


「ならば妹がーーーー」


「構わーーー」







「一応俺からの願いはこれで全部です。本当に我儘すぎて申し訳ありません」


「私としても国としてもその程度は一向に構わん。紅葉君や芥君鹿島君もしっかりと我儘を言ったのだこれで少しは政府の者も黙る……はずだ」


心なしか姿自体が疲れている

ふと古豪が時計を見る


「む、もう昼過ぎではないか。一緒にご飯でも食べるかね?金は政府持ちだそうだぞ?」


2時間近くも話して事で真達と打ち解けた古豪は冗談を言う。


「プフッ!ですが一応入院扱いですから適当にこの病院で健康的な食べ物を食べますよ」


「若いから物足りないのではないかね?」


「「「「結構足りませんね」」」」


「はっはっはっ!愉快だな君達は!なら私は報告しないといけないのでね失礼する」


古豪響の様子に唖然としつつも芦野はドアを開けて出て行って。





「取り敢えず明日には制服届くみたいだし!楽しみだな〜〜」


「紅葉さんそんなに高校行きたかったんですか?」


うきうきが激しい紅葉を見て堪らず芥が聞く。


「私高校行ってないもーーん!」


「え?!」


「あ〜……そう言えばそんな事も聞きましたね」


「確かに、言われて見れば」


「え、え?!」


一応の形だけの入院期間は2日その間は学校も休校期間になっている。

先程の話だけで真の残りの高校生活にデルガとアグリード。

更におまけで紅葉詩乃も加わる事になった。







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