第九話 「歯車ノ動キ始メ①」
キーンコーンカーンコーン……
一日の授業の終わりを示す鐘の音。
「んー!今日も終わった~」
ユウは上半身を伸ばし、固まってた身体をほぐす。その席にツナギとシュウカが近寄る。
「今日当てられるとか聞いてない~」
「あはは、秋叶は勉強してる感じもないから目ぇつけられてるんじゃない?」
「むーシウだっていろいろやってるもん~忙しいの~」
「えー?ほんとかなー?津凪一緒に住んでるんでしょ?そこどーなのよ」
「うーん、ご飯とかは一緒だけど、勉強とかはそれぞれ部屋でやるって感じだからなぁ……、シュウちゃんが言ってくれば一緒にやるけど……」
「う~、シウは勉強より大事なことがあるの~!」
「なにそれーあはは」
楽しく今日を振り返り会話をしている三人。そこへ教室入口付近に立っていたクラスメイトの声が割って入った。
「網走さーん、先輩が呼んでるよー」
「あ、はーい、今いくー!」
「夕、また他校に行くの?」
「んー、いや今日はその予定じゃなかったんだけど……急な呼び出しかかったのかな?行ってくるね!二人は帰るでしょ?」
「そうだね~」
「じゃあ、また明日!」
そう言って荷物を持ち車椅子を転がし教室を出ていったユウ。
「私達も、帰ろっか」
「うん~」
二人も帰り支度をして教室を出る。
天気は晴れる気配もなくずっと雨続きでいる。それぞれ傘を差し何気ない会話をしながら、二人は駅前の商店街というには少し足りない店数を眺めながら駅に向かう。
「ねぇ、ツーちゃん……」
ふいにシュウカがツナギを呼び止める。
「ん?どうしたの?」
「あれ……」
シュウカはあまり人が通らない路地裏を見て指を指していた。
「え?」
その方向をツナギも覗く。そこには小さいが『ソレ』に似た黒いうごめいている影が落ちていた。
「これって……」
「でも、小さいよね……被害無さそうなくらい……」
ツナギ達は路地裏に入りソレに近づき襲ってこないか確かめる。
ソレはうごめいてはいるが、それだけで形は成していなかった。
「あっ……なんか、続いてる?」
小さいソレの跡はポタポタと落ちているように路地裏奥に続いていた。
「誘いこまれてる?のかな~?」
「でもこんなあからさまじゃあ私達も行く必要──」
「きゃあああああああああ」
ツナギが言葉を発し終える前に聞こえた悲鳴。
「!?」
「え!?私達に襲い掛かるんじゃなかったの?」
「……行ってみる?」
「うん、私達は倒せるんだし、他人が巻き込まれてるんだったら行かなきゃ!」
「…………そう、だね」
先を走っていったツナギ。後からシュウカも追っかける。
「はぁ、はぁ、あれは……!」
走って息を切らしながら路地裏を進むと、そこには自分達の通う学校の制服を着た三人の女子。黒い影のソレが
「!?」
シュウカも追いつき状況を見て驚く。
「助け、なきゃ」
[我ハ光ナルモノ ソノ役目──]
「!?、シュウ、ちゃん?」
ツナギが変身するために唱えていたところをシュウカは袖を引っ張り中断させる。
「何してるの?助けないと!」
「意味……ないよ」
「え?」
シュウカは消えるような小さな声で言った。
「意味……ない……」
「意味ないって……なにが?なんで?」
ソレに掴まれている一人の少女は苦しそうに口から声を漏らす。
「たす……け………で……」
「シュウちゃん!」
「……だって、あいつら……」
「え?」
自分と同じ制服を着た少女達をみる。怯えた表情をしているがその顔はどこか見覚えがあった。
「あっ……」
それは先日、校舎で別のクラスの子をいじめていた飯田、茂原、目黒の三人組だった。
「……で、でも──」
ツナギはそれでも助けなきゃということをシュウカに伝えようとするも、突然の大声に阻まれる。
「だって!」
「だって、そいつら助けても、またいじめられてる子はいじめられる……。だったら……みなかったことにすればいいじゃん……」
シュウカは俯いていてツナギからは表情は見れなかった。ただツナギの袖を力一杯に握っていることだけは分かった。
「…………」
ツナギは一瞬だけ止まった。けれどそれは一瞬で、シュウカが握っている手に上から自分の手を重ねる。そしてシュウカの方を見て言った。
「それでも、私は後悔したくないから。」
「あ…………」
シュウカはツナギの言葉を聞いて手を離す。
「ありがとう。シュウちゃんは帰りたいなら帰ってていいよ。」
そう言って変身するツナギ。
その場に立ち尽くすシュウカはツナギにも聞こえない声で呟いた。
「意味、ないのに」
そうして立ち去るシュウカ。
それを見送ったツナギは少し悲しげな表情をする。
(シュウちゃんも、わかってもらえるはず!)
この子達を助けて、その後にこれ以上いじめをしないようにさせる。それがツナギが思い描いた未来。
(そのためにも……!)
ソレの方を向き、剣を構えるツナギ。
「やあああああ!」
剣を振り上げソレに一人向かっていった。
──ツナギ達が学校を出た時間、ユウは部活の元先輩に呼び出され、そこで衝撃的な事実を告げられる。
「え…………」
言葉を失った。ただただ雨の地面にあたる音が聞こえるだけで、頭ではなにも理解ができなかった。
目の前にいる先輩も声が震えてた。でもそれに対してもなにも言い返すことはできなかった。
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