第八話 「偶然ナル繋ガリ②」

 放課後、ユウに連れられツナギとシュウカの三人は学校の最寄り駅から電車を乗り継ぎ、ユウが訪れた学園へ向かう。

「ふわぁ~」

「大きいね……」

ユウは他校と気軽に言っていたが、その学園は門構えからしてツナギ達の通ういわゆる学校とは違い、明らかに学園という感じだった。

「シ、シウたち本当に入ってだいじょうぶなの?」

「あはは秋叶らしくないなぁ」

「いやでもほんとこれはさすがにそうなるよ……」

「大丈夫だって!ほらあっちがグランド」

ユウが先を行き、二人は恐る恐る学園内へ。

グランドが近くなるとなにやら騒がしい声が聞こえてきた。

「きゃー!鳳来先輩今日もかっこいい!」

「かっこいい通り越して尊い!」

「こっち向いてください!……きゃー!ありがとうございます!ありがとうございます!」


「わぁ!すごーい」

「これ……全員、夕が見せてくれた雑誌の人の?」

「そ。すごいよね」

 そこにはゆうに100人を越えるほどいるのではないかという人だかり。それぞれの女の子たちが自家製の団扇やタオルを持ち、アイドルのコンサートかと思うほどの熱量がそこにはあった。

「鳳来さんとは時間約束してるから後で会えるよ」

「ふえ!?会えるの?ひゃー!どうしよう!」

「えぇそんな……私達、夕みたいにスポーツやってたわけじゃないし……」

「そんなこと言って、ユーちゃん嬉しそうなのバレバレ~」

頬を赤らめ嬉しがるシュウカ。戸惑いながらも嬉しさを隠せないツナギ。

「あはは、全然!鳳来さん喋ってみると意外と普通だよ。ちょっと人たらしみたいなところはあるけど」

「人たらしって……」

ユウの説明が失礼にあたっていないか不安になるツナギ。

「まぁとりあえずこれも見せたかったんだ。結構面白いでしょ?」

「面白いというか、本当にすごい……」

「こんなに学園の人たちがファンなの、芸能人並だね~」

「ちなみに、この学園の人たちだけじゃなかったり」

「えぇ!?」

よく見てみると制服が違う女の子たちがちらほら。

「ほぇ~」

シュウカは圧倒されていた。


「約束の場所は向こうの貸し教室らしいから、先に行ってよっか」

ユウがまた先頭立って車椅子を転がしていく。ツナギもそれに続く。

「あれ?シュウちゃん?」

シュウカが別の方向を見ていた。

「どうした?」

「えーっと、あの集団も、鳳来さん、の?」

シュウカが見ていた方向には明らかに制服ではない、学生でもないような人達の集団が。

「あれは……カメラとか持ってる感じだね?」

「マスコミ?でも今日鳳来さんの予定は何もないはず……」

すると学園から歩き出てきた1人の少女にその集団が一斉に囲みだした。

「えっ?」

三人はわけもわからず事の様子を見ていることしかできなかった。




「音無さん!音無綺楽さん!どうして活動をいきなり休止されたのですか!?」

「返事をしてください!」

「音無さん!音無さん!」

 カメラの連写するシャッター音、大声でしかも複数人で同時に話しかけるマスコミ。カメラはフラッシュもたかれ前がよく見えない。

「そういうのはやめてください!」

「敷地内に無断で入らないでください!」

後ろからフォローに入る教員ら、そしてマネージャー。

(返事、ねぇ。)

 その少女、有名アイドル『音無 綺楽』はただこの事が収まるまでその場で下を向いていた。

(返事が出来たら、こんなことにはなってないわよ)

その内に警備員が来て追い出してくれる。それまでじっとしていればいい。慣れている。キラは無になることで自分を守っていた。


少し離れたところから黄色い声援が聞こえた。キラ当てではない。それは今でも自分の好きなことをして、成功して、評価を沢山貰えてるキラのクラスメイト鳳来南瑠のモノだ。

将来も期待され保証もされている。流行りという不安定なモノに流されいつかは風化するアイドルとは違う。それなのにアイドルみたいに人気もあるだなんて。なんてゲンジツは不条理で不平等なんだろう。

その声援は大きくなって聞こえてきた。こちらなど見向きもしない人達が増えただけ。とキラはそう思っていた。


違った。


 鳳来と書かれた団扇やタオル、はちまきなどしてる女の子たちがキラの方向へ向かってきていた。

「な、なんなんだこの集団は……」

「やめなさい君!機材に触れるな!」

キラの目の前ではマスコミと、マスコミよりもはるかに多い女の子たちがもみくちゃになっていた。

ぽかんとするキラ。すると後ろから声がした。

「ふふ、全く仕方ないね」

「…………」

「やぁ元気かい?なんて聞くのは野暮かな?」

「…………」

「これから私は予定があるのだが、困ってる君を見かけてね。私のファン達が教えてくれたんだよ」

「…………」

「ほら、今のうちに行くよ」

「…………」

キラの手を取るナル。全速力で走られてもスポーツマンとじゃ敵わないのに。とキラは息を切らしながら共に走っていった。



「ほぇ~なんかすごいことになってる……」

事の一部始終を見ていた三人。

人だかりがナルのファンとマスコミが混ざった時点でなにも見えなくなっていた。

「というか、音無……って聞こえなかった?」

ツナギがお昼に話していた内容を思い出す。

「そういえば、この学園、アイドルやってる子もいるって話を先輩から聞いたような聞いてないような……」

「ふぇ!?そうなの!?ユーちゃん、ちゃんと聞いててよ~」

「いやぁアイドルは興味なかったから名前までちゃんと聞いてなかった。ごめんごめん」

「もーユーちゃんてば~」

「あ、時間に遅れちゃうし、早めに着いておきたいからもう行こう」

「そうだね。失礼がないようにしないと」


三人はナルとの待ち合わせ場所へ向かった。

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